2016/07/09

372 参院選と改憲-4

◆電話で長話

この10日間ばかり、私は電話で長話をすることに明け暮れました。話題はもちろん参院選をとりまく日本の状況についてです。長い間連絡を取っていなかった友人たちや、日常的な話題以外は踏み込んだ政治の話をしなかった知人たちに、今度の参院選は民主主義体制のもとでの最後の選挙になるかもしれないこと、与党が3分の2以上を獲得した場合、選挙後の秋の国会で、憲法改正の手続きを進めようとしていることなどを説明しようとしたのです。

話して良かったです。今の日本が危機的な状況にあることを具体的に知っている人は僅かでした。改憲の危機が迫っていること、その為には参院選で改憲賛成の政党と候補者に一票を投じてはいけないことは分かってもらえても、それではどの政党が改憲賛成の政党なのか、さっぱり分からないという具合です。「自民党と公明党以外の野党ならばどこでも良い」、あるいは「○○党とその候補者に入れて!」と簡単には言えない状況がもどかしい限りです。

◆マスメディアとインターネット・メディア

なぜ簡単に言えないかということを説明するには、2015年9月の安保法案の強行採決の後から始まった野党協力と、今年、2016年の春にやっとまとまった32の1人区での野党統一候補の流れ、比例区での統一名簿方式の挫折したことまで説明することになります。ほとんどの人が初耳のことばかりのようでした。確かに孫崎享氏が2013年の元旦の挨拶(1)で予言したように、テレビや全国紙などのマスメディアしか見ていない人にとって、今の日本がどうなっているのかを知りたいと思っても、目も耳も塞がれたに等しい状態では、何がどうなっているのかを理解することは本当に難しいことでしょう。

最近見たツイッター記事(2)は、既存マスメディアだけの情報過疎の状態がどのようなものであるのかということをぴったりの言葉で表現しています。

実家に帰った時、じじばばの世界を体験した。読売新聞と、テレビと、同年代(昭和一桁)の世間話だけが情報源でネット無しという世界へダイブ。オプションで「英語は読めない」という設定を追加した。何が見えた?地獄です。半日で音を上げた。目隠しの国。最近の恐怖体験はコレ。

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東京選挙区で立候補している三宅洋平さんのスピーチがいかに素晴らしいかということを伝えたいと思っても、「そんな名前、聞いたことない」という具合です。確かにテレビや全国紙では報道されていないので、せめてインターネット上の動画で街宣スピーチを聞いて貰いたいと思っても、インターネットにアクセスできなければどうしようもありません。

「比例は福島みずほさんを応援しているの」と言うと、「え?福島みずほさん、今度の参院選に立候補しているの?それに比例は政党の名前を書くんじゃなかったっけ?」と返されます。
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(1)孫崎享 新年のご挨拶 「日本の再生はソーシャル・メディアの普及にあり」 http://ch.nicovideo.jp/article/ar25450 (ニコニコチャンネル 2013.1.1)

2013年、日本は重大な岐路に立っています。自民党政権の誕生によって、原発の再稼働が行われます。(中略)消費税が増税されます。(中略)自衛隊を(中略)海外に派遣する集団的自衛権を進めようとしている。TPPへの参加で、日本の骨格を大きく変え、国民健康保険も骨抜きになる事態を迎えようとしている。
 そして自民党は参議院選挙で勝利し、憲法改正し、日本の国内体制を変えようとしている。(中略)もはや大手メディアに客観的に事実と考えを伝える力はない。権力機構側の考えを一方的に流すだけではない。それだけでなく、読売新聞などは自分たちも権力を構成する一員と認識し、その宣伝機関の役目を積極的に買ってでている。あるいは指南役を自認している。
 この中、ソーシャル・メディアの役割は極めて大きい。
 原発であれ、TPPであれ、総選挙時の政党選択であれ、ソーシャル・メディアを利用している層と、情報を新聞・テレビに依存している層とは判断・選択が明らかに違う。私個人も、今年の活動の中心をソーシャル・メディアにおく。ツイッターとニコニコ動画発信を軸とする。日本国民の覚醒に少しでも貢献したい。

(2)kurikuri321 @kurikuri321 https://twitter.com/kurikuri321/status/750306615182684160

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2016/07/08

371 参院選と改憲-3

◆『北朝鮮のような国』

民主主義の危機という話をしながら、参院選の重要性と、その一例として安保法制の話をすると、「でも、『北朝鮮のような国』が日本を攻めてきたら怖いじゃない?」という言葉が返ってくる事がよくあります。

『北朝鮮のような国』!私が心配しているのは、『北朝鮮のような国』が攻めてくることではなく、日本が『北朝鮮のような国』になってしまうことなのです。自由にものも言えない国。集会やデモは許されず、記念式典には指導者を讃える一糸乱れぬマスゲームを披露する全体主義の国。国民は恐ろしいほどの貧困に喘いでいるのに、国の指導者は美食の限りを尽くしている国。

北朝鮮が共産主義国家だからこうなっているのではありません。共産主義者を憎み、弾圧したナチス・ドイツも同じような状況でした。国家権力の暴走を縛る仕組みが壊されて、独裁国家になった時、その国が共産主義国家であろうとなかろうと、同じことになるのです。国民が弾圧を怖れ、政府に対する批判をしなくなり、政府の言うがままになった時、『北朝鮮のような国』になってしまうのです。そして日本もそうならないとは限りません。

◆自民党改憲草案

こういうことを言うと「それは考えすぎでしょ!この日本がそんな国になる訳ないでしょ!」という反応が返ってくることがよくあります。そういう人には「1回で良いから、自民党改憲草案を読んでみて」と言う事にしています。あるいは、次のような動画を見て貰うのも良いかもしれません。

これは平成24年5月10日に行われた、創世日本(会長:安倍晋三)の東京研修会の一場面です。安倍晋三会長が列席する中で、元法務大臣の長勢甚遠が次のように発言しています。

自民党の憲法草案というものが、発表されました。わたしはあれを読んで、正直言って、不満なんです。自民党も戦後レジームの定着に大きな役割を果たしてきたんだなという事を自ら言っているようなもんだと思っています。(...)一番最初にどう言っているかというとですね、国民主権、基本的人権、平和主義、これは堅持するって言ってるんですよ。(...)この三つを無くさなければですね、ほんとの自主憲法にはならないんですよ(1)。

◆政府公報機関と化したマスコミ

もっとも、自民党改憲草案を読むにしても、 youtube の動画を見るにしても、その人がインターネットにアクセスできないとどうにもなりません。インターネットにアクセスできるか、できないか、SNSを使えるか使えないか...。この二種類の人々の間に横たわる広く深い溝をどう乗り越えたら良いのか、これが「話が通じない」という経験をする度に私が感じる焦燥感です。

例えば、参院選の東京選挙区に立候補しているミュージシャンの三宅洋平さんの街宣とスピーチがツイッターでは連日話題になっています。6月25日の渋谷では以下の画像に見られるように1万人もの有権者が集まったということです。

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これは普通なら事件と言うべき現象であり、本当なら全国紙で記事にされるべきことでしょう。朝日新聞(2016年6月25日)は「三宅洋平氏は支持の広がりが見られない」と報道しましたが、1万人もの聴衆を引きつける三宅洋平氏の街宣の様子を見ると、強い違和感を感じます。

◆生きることと政治のあり方と

聴衆の多さも特筆すべきことですが、スピーチの内容も、日毎に内容の深いものになっていくので、一度聞いた人はまた行って生の街宣に参加したくなること間違いなしという具合です。多くの人は高円寺駅前の街宣(2)を絶賛していますが、私は、立川駅北口のスピーチに感服しました。彼は矢部宏治氏の二つの著作(4)をきちんと読みこなし、自分の言葉でかみ砕いて、戦後日本が辿ってきた一つの物語として聴衆に語りかけています。その内容は実際に動画(3)で聞いていただくとして、私は政治の世界に身を投じることにした彼の言葉に心打たれました。

(前略)長く険しい道のりがあるかもしれないけれども、例え、ゴルゴ13 に命を狙われたとしても、俺はもう恐れないです。何でかと云うと,ここに立つと思うんですよ。あ〜,自分の命の使い方を見つけられて、俺はとても仕合せだって。それは長生きしたいさ。湯川さんみたいな素敵な年の取り方してる人もいるぜ。俺も80歳まで生きたいな〜って思うよ。

だけど80まで生きることが先に目的にあるはずじゃない、命をどうやって使うかを見つける事が仕合せだと俺は思うんだ。それを積み重ねて,積み重ねて,80まで生きることが出来たらハッピーだな。だから恐れずに進んで行きたいんです。(後略)

選挙の街宣とは思えない、何か映画の一場面を見ているようでした。選挙演説と言えば空虚な内容のものばかりなのに、彼の話は人間が生きていくこと、個人の幸福を追い求めることと社会との関わりを深く考えさせるものでした。

この街宣には「生活の党と山本太郎」の代表の小沢一郎が応援演説に駆けつけました。そのスピーチ(5)も率直で謙虚で情熱に溢れたものであり、多くの人に聞いてもらいたいと思うものでした。

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(1)長勢甚遠氏「国民主権、基本的人権、平和主義。この3つをなくす!  https://www.youtube.com/watch?v=ZDOjGXAI03s

(2)20160623三宅洋平 選挙フェスDay2 JR高円寺駅北口 東京都選挙区 参議院選挙  https://www.youtube.com/watch?v=4hnCHVuzVFI

(3)三宅洋平(1.39.40〜)2016年7月4日 立川駅北口 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/314131 

(4)矢部宏治(2014)『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』集英社
(無料立ち読み http://www.shueisha-int.co.jp/pdfdata/0236/nihonhanaze.pdf

矢部宏治(2016)『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』集英社
(無料立ち読み http://www.shueisha-int.co.jp/pdfdata/0282/sensoudekirukuni.pdf

(5)小沢一郎(15.04〜24.01)2016年7月4日 立川駅北口 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/314131

(前略)私は実はこの席に来る前に、ネットで彼の喋っている話を聞いてきました。はるかに私より立派なお話をしておられまして、理路整然とやっていると同 時に、非常にみんなにわかりやすい表現のしかたをされていますね。それこそ、私は政治家にとって必要な最大の素質だと思っています。(後略)

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2016/07/06

370 参院選と改憲-2

◆憲法の庇護のもとで
団塊の世代である私は現行憲法のもとで、70年近くの時を過ごしてきました。現行憲法は戦後に生まれた私たちの親のようなものであり、この親の庇護のもとで、私たちは生きてきました。70年間、平和と安全がいつまでも続くことを信じて疑うことがありませんでした。現行憲法の骨格をなす、「民主主義、基本的人権の尊重、平和主義」の三原則は、私にとっては空気や水があるのと同じように「あって当然」のものでした。

「あって当然」のものに対しては、普段はあまり注意を払いません。なくなるかもしれないという状況になって、初めてその大切さに気付くのです。60年安保、70年安保など、幾つかの節目節目において、親である憲法と国の成り立ちに思いを馳せることはありましたが、普段は親の様子を気に掛けることもなく、自分たちの日々の暮らしにかまけていました。いつまでも親は元気でいると思っていましたから...。

◆瀕死の現行憲法
気が付いてみれば、大切な親である憲法は今まさに瀕死の状態であり、あって当たり前と思っていた「民主主義、基本的人権の尊重、平和主義」は根底から覆されようとしていたのです。2015年9月、安保法案が強行採決された時、私はインターネットで国会中継を見ていました。可決されること自体は「数の論理」で予測されたことでしたから、それほどの驚きではありませんでした。

しかし、後に「人間かまくら(画像1)」と言われるようになった安保法案の採決のされ方には戦慄せざるを得ませんでした。それはちょうど、元気でいると思っていた親の元に久し振りに帰った子どもが、明日の命も危ぶまれるほどの瀕死の状態にある親の姿を見て、愕然とするようなものでした。議長の声も聞こえず、速記の記録もとれない混乱の状態で「可決された」という国会は、もう民主主義の要である立法府の体をなしていませんでした。

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◆参院選の後に改憲
安保法案の強行採決は、憲法の平和主義が破壊されただけでなく、民主主義もその内実を失ったことを示していました。残るは基本的人権の尊重ですが、参院選で自民・公明など改憲勢力が3分の2議席を獲得した場合、その後に予定されている自民党の改憲案(1)、特に緊急事態条項は、まさに基本的人権の停止を主眼とするものなのです。緊急事態条項については、このブログ「原発報道あれこれ 361〜368」に詳しく書いたので、そちらをご覧下さい。

「日本が自由にものも言えない国になるのではないか?自分の子どもや孫が戦争に行かされることになるのではないか?」...私が生きているうちに、よもやこのような心配をする時が来るとは思っていませんでした。

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(1)日本国憲法改正草案 Q&A(増補版)PDFファイル  https://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/kenpou_qa.pdf

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2016/06/29

369 参院選と改憲-1

◆本当の争点は改憲
あとから振り返って「あの時が時代の分かれ目だった」と気づくことがあります。既に多くの人が指摘している通り、今度の参院選は、どちらに転んでもまさに歴史の転換点となる重大な選挙となるでしょう。日本が民主主義と立憲主義を守り続けるか、軍事独裁国家に回帰していくかの分岐点なのですから。

安倍政権は参院選後の秋の国会で、憲法改正の手続きを進めようとしています(1)。しかし参院選では世論の反発を避けるためか、「争点は改憲」と明言することを避けています(2)。確かに最近の世論調査では、改憲への賛否が3年前と逆転して、反対の方が賛成を上回るという変化を示しています(3)。

2013年 改憲 賛成 (46%) 改憲反対 (34%)
2016年 改憲 賛成↘(36%) 改憲反対↗(45%)

◆選挙前と選挙後で変わる公約と争点
この結果を見て、「民意は健全だ。民主主義と平和憲法は今まで通り続くだろう...」と思うのは早計です。同じ世論調査の中で、安倍内閣の支持率を見てみると、支持は42%、不支持率は35%という結果が出ています。つまり安倍内閣を支持している有権者(42%)と改憲に反対する有権者(45%) の率はほぼ同じであり、選挙の時、安倍内閣を支持する有権者が自民党に投票したら、その人達がいくら改憲に反対であっても、安倍内閣は「改憲について有権者から信を得た」とみなすでしょう。

参院選で自民党や公明党などの改憲政党に投票することは、改憲に賛成するという意思表示をすることになるのですが、このことを有権者がどれだけ意識して投票するか、とても心配です。「参院選の争点は消費税増税の再延期だと思っていたのに...」と言っても後の祭りです。

それどころか、自民党は選挙が終わると、選挙前の公約はきれいさっぱり忘れているようです。以前の選挙の時の自民党のポスターに書かれていた公約を見てみましょう。

それがその後どうなったのか、よく考えてみれば、今回の選挙とその後に続くことがどうなるのかが予想できます。まず選挙に勝つことが最重要課題であり、そのためには何でもするでしょう。選挙に勝ったなら、やりたいと思っていることを進めていくでしょう。2012年に出された自民党の改憲草案を読んでみれば、やりたいことの中に、緊急事態条項の新設や9条の改変が含まれていることは明らかです。

◆改憲に賛成する政党と反対する政党
友達に改憲の危険性と参院選の重要さについて話をすると、「改憲には反対!だから自民党と公明党以外の野党に入れれば良いんでしょ?」という反応が返ってくるのには驚きますし、不安を覚えます。現在の政治状況はそれほど簡単ではなく、自民党と公明党以外にも改憲に賛成する政党はあるからです。以下にそれをまとめましたので、参考にして下さい(内容の改変をしない限り転載自由)。

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(1)安倍首相「次の国会から改憲議論」 参院選後 具体的に条文審査(東京新聞 2016年6月20日) http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201606/CK2016062002000120.html

安倍晋三首相は十九日、インターネット動画中継サイト「ニコニコ動画」の党首討論会で、改憲について「参院選の結果を受け、どの条文を変えていくか、条文の中身をどのように変えていくかについて、議論を進めていきたい。次の国会から憲法審査会を動かしていきたい。自民党の総裁としてぜひ動かしたい」と秋の臨時国会から、衆参両院に設置されている憲法審査会で、具体的な改憲項目の議論を与野党で進めたい考えを示した。(後略)

(2)憲法改正 安倍首相は封印、公明党に配慮か 「民共」一体で対案なき9条改正反対(産経新聞 2016.6.16) http://www.sankei.com/politics/news/160616/plt1606160062-n1.html

自民党は立党以来、「自主憲法制定」を党是に掲げている。改憲は安倍晋三首相の悲願でもあり、3月の参院予算委員会では「在任中に成し遂げたい」と強い意欲を示した。首相は周囲にも「憲法改正を本気でやるガッツのあるやつは私しかいない」と漏らす。

 自民党は平成24年に改憲草案をまとめた。ただ、参院選では具体的な改正項目への言及を避けている。(中略)27年2月の自民党憲法改正推進本部会合では、緊急事態条項、環境権などの新しい人権、財政規律条項-の創設を中心に議論することが確認された。今年に入っても議論は重ねているが、改憲条項の絞り込みに至っていない。参院選を前に世論の反発を避けたい思惑が透けてみえる。(後略)
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(3)改憲反対45% 安倍内閣支持42%(毎日新聞 2016.6.24) http://mainichi.jp/senkyo/articles/20160624/k00/00m/010/125000c

毎日新聞が22、23両日に実施した特別世論調査で、参院選後、憲法改正の手続きを進めることへの賛否を聞いたところ、「反対」との回答が45%で、「賛成」の36%を上回った。安倍内閣の支持率は42%、不支持率は35%だった。 2013年の前回参院選時の特別世論調査では「賛成」(46%)が「反対」(34%)を上回っていた。今回の参院選の結果、改憲勢力が参院で、改憲案の発議に必要な3分の2以上の議席を得る可能性が出てきたが、世論は慎重意見が強い。 (後略)

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2016/01/26

368 緊急事態条項 8

◆立憲主義を崩壊させる緊急事態条項
緊急事態条項は憲法のあり方を根本から変えてしまう極めて危険なものです。憲法は本来、国家権力を制限し、人権を擁護するものですが(立憲主義)、逆に国家権力が国民の権利・自由を制限するものになるのですから。立憲主義を崩壊させる、このような改憲案について、元・最高裁判事の濱田邦夫弁護士は「全く世界に例を見ない悪法」と言っています(1)。

◆何のための緊急事態条項?
政府が改憲の手始めとして、緊急事態条項を目指しているのは、一体何のためでしょうか?独裁国家の確立にとって、不可欠なステップだからというのもありますが、それよりもずっと具体的な当面の目標があるのだということを孫崎氏の記事(2)を読んで気が付きました。

多くの国民は、災害に対応する「緊急事態条項」は憲法に必要——と思うだろう。しかし、問題は「緊急事態条項」を使って何をするのかであり、それは自民党の改憲草案で明確に示されている。(中略)なぜ、こんな改悪を進めようとし ているのかといえば、集団的自衛権と関係がある。

 安倍政権は安保法をつくった。しかし、これが憲法違反であることは歴然で、法に従って自衛隊を海外派遣しようとすれば、違憲訴訟が起きる。さらに国民の 猛反対で憲法9条の改正もできない。そこで、「緊急事態条項」で実質的に9条の改正と同じ効果を得ようとしているのだ。「災害のため」というのは口実にす ぎない。

◆戦争しない国に緊急事態条項は不要
伊藤真弁護士の解説(3)にも同様の指摘があるので要約します。

外国で緊急事態条項がある場合、それは災害時ではなく、戦時のためです。日本の憲法に緊急事態条項がなぜ無いかというと、それは日本が戦争をしないということを憲法に定めているからです。自民党の改憲案で、何が緊急事態かも曖昧なのは、それを隠すためなのです。

◆コインの表裏
憲法9条に戦争放棄が定められていることと、憲法に緊急事態条項が無いこととは、コインの表裏のような関係になっているのですね。緊急事態条項の新設は、9条削除のための裏口突破のようなもの、そう考えると、色々なことがはっきりした輪郭を伴って見えてくる感じがします。

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緊急事態条項に関しては、今回でひとまず締めくくります。これまで書いてきたことをA41枚の紙に収まるようにまとめたチラシを知人と一緒に作りました(4)。様々な機会に手渡ししたり、配布したりするつもりです。内容を変更しない限り配布、転載自由ですので、どうぞご利用下さい。
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(1)2016/1/20 「ママと議員の憲法カフェ@参議院議員会館」ゲスト講師・元最高裁判事・濱田邦夫弁護士(動画)  http://iwj.co.jp/wj/open/archives/283257

(2)孫崎享 日本外交と政治の正体 「緊急事態条項」は独裁国家成立への道
(日刊ゲンダイ 2016年1月22日) http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/173899

(3)伊藤真弁護士「憲法記念日~改憲でどうなる?本当のところを知りたい」(2013年5月 3日 報道するラジオ)【文字起こし】 http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-2959.html

(4)原発報道あれこれ・福島応援プロジェクト 「緊急事態条項の危険性」 

チラシカラー http://tratnou.cocolog-nifty.com/blog/kinkyu2-2.pdf

チラシ白黒 http://tratnou.cocolog-nifty.com/blog/kinkyu1red.pdf

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2016/01/22

367 緊急事態条項 7

引き続き、緊急事態条項の問題点に関する小口弁護士の指摘を転載します(1)、(2)。

●災害時に大事なのは現場
【小口】 (前略)災害対応で一番重要なのは「現場に権限を下ろすこと」だということです。避難所相談は、現場を見ていた私が独断で動いたからこそ実現したわけですが、市町村と県、国の関係も同じ。宮古市長の見ているものと、盛岡にいる県知事の見ているもの、国の見ているものはまったく違いますから、判断がどうしてもずれてきます。こういうときは、現場の人間を信頼してそこに判断の権限を与えるのが鉄則だと思うんです。上の判断を災害は待ってくれません。(中略)

●支援に足りないのは事前準備と活用
東日本大震災のことを考えても、あのとき起こった数々の悲劇は、「緊急事態条項があったら救えた」のでしょうか? 

例えば、福島県の大熊町にある双葉病院では原発事故の後、避難途中の混乱で多くの患者さんが亡くなられましたね。この犠牲は、国家緊急権が発動できれば減ったでしょうか?何か法律が国会で承認されなかったから起きたのでしょうか?違いますよね。単純に原発事故の際の情報開示や避難計画に関する準備が足りなかったということです。

●現場が混乱する可能性
災害に対する備えは、法律や条令、政令や通達の中にたくさんあって、それを前提として緊急時の準備もある程度行われています。そんな中、突然内閣が緊急事態を宣言させて権限を集中させた場合、逆に現場は混乱する可能性が高いということです。現場の人が自分たちで判断して動こうとしても、「総理が緊急事態を宣言した」となれば、「これから内閣がどんどん政令をつくって指示を出すから待機せよ」ということになりかねない。(中略)

●災害時の法律は整備済み
【小口】 災害対策基本法は昭和30年代、伊勢湾台風の後、安保闘争も行われていた時代にできた法律で、(中略)生活必需品の配給・譲渡の制限、物価の統制、金銭債務の支払い延期や外国からの援助の受け入れなど、大きな権限を内閣に与えるのですが、これが憲法違反ではないかと問題になったのです。

しかし、最終的には「憲法違反ではない」と判断されて、法律は成立しました。国会閉会中や衆議院の解散中で、様々な措置をする時間がないときは、内閣は法律で許された項目だけ国会にかけずに決めることができる、緊急時に国民の生命財産を守るのにどうしても必要なことだけはできるようにしておく。(中略)

外国が憲法で定めているものよりよっぽど精密なものを、日本では法律のレベルで定めて、しっかり機能するように整備されているんです。(後略)

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(1)小口幸人さんに聞いた 災害の現場で必要なのは「国家緊急権」ではない(その1) http://www.magazine9.jp/article/konohito/23097/ (●で始まる見だしタイトルは筆者によるものであり、原文にはない)

(2)小口幸人さんに聞いた 緊急事態条項の導入は「災害」を名目にした「戦争への準備」(その2)  http://www.magazine9.jp/article/konohito/23097/ 

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2016/01/21

366 緊急事態条項 6

◆原発事故と緊急事態条項
脱原発を望む人たちにとって、緊急事態条項はどのような影響があるでしょうか?
たとえば、福島のような原発事故が起こった時のことを考えてみます。全ての権限が総理大臣に集中する状況で、「強力なリーダーシップで事故を収束させ、早い速度で被災地を復興させてくれるだろう」と期待していたら、全く逆のとんでもないことが起こる可能性もあるのです。

原発が事故を起こした場合、それが発表されない可能性もあります。飯館村がそうだったように、放射性プルームが飛んできても知らされずに髙汚染地帯に留まり続け、気が付いた時には既に被曝していたということにもなりかねません。

東日本大震災の後、被災者支援・立法提言活動に奔走してきた経験から、小口弁護士は災害時における緊急事態条項の危険性を指摘しています。少し長くなりますが、以下に抜粋・転載します(1)。

●戦争中、隠蔽された二つの大地震
【小口】 (前略)実は、第二次世界大戦末期の1944年12月には東南海地震、1945年の1月には三河地震と、それぞれ震度7クラスの地震が起きているのですが、みなさんご存知ないですよね? 実は、戦争に悪影響を与えるということで情報統制されて、当時もほぼ「なかったこと」にされたのです。十分な復旧復興活動も行われませんでした。

通信、報道規制による隠蔽
東日本大震災を経験した者からすると、一番怖いのは、原発事故を隠されることです。自民党の改憲案なら、それが可能です。内閣が緊急事態を宣言して、「災害復旧活動の混乱を招くような報道やデマに繋がる通信は規制する」ということで、報道については事前規制を、インターネットについては通信規制をして、違反者への罰則を定めてしまえば、原発事故は簡単に「なかった」ことにできると思います。

なんせ放射能は見えないんですから、ガイガーカウンターで測定でもしない限りはわからない。東日本のときも、原発事故に関する情報は、みんな国と東電の記者会見に依存していましたよね。例外はツイッターぐらいでした。あのときのことを思い出していただければ、絵空事ではないことがお分かりいただけると思います。

情報伝達の方法がなくなる
【編集部】 誰かがガイガーカウンターで測定したとしても、その情報を拡散する術がないですね。
【小口】 そうなんです。情報を伝達する方法がなくなる、というのは本当に恐ろしいものです。自分が見聞きしたもの以外は知ることができないんですから。  災害直後という、ただでさえ通信が不十分になり混乱しているときは、どうしても政府からの情報に依存しがちです。4年前の原発事故のときだって、みんな、固唾を呑んでテレビで東電や枝野官房長官の記者会見を見ていたじゃないですか。緊急事態条項がなくてもあんな状態だったんです。更に国が情報を規制できる権限を憲法に定めたら、災害直後は、国が見せたいものしか見られなくなっても全然不思議ではありません。

避難もできない?
(中略)緊急事態宣言が出されて国家緊急権が発動される、なんていうことになったら…。いわゆる「御用学者」以外の学者やメディアは一切情報発信できなくなるし、移転の自由を制限して、住民の避難を止めることだってできてしまいます。国道は物資の輸送のために使用するから他の車両や人は一切通さないとか、いくらでも名目は立てられますから。(後略)

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(1)小口幸人さんに聞いた 緊急事態条項の導入は「災害」を名目にした「戦争への準備」(その2) (●で始まる見だしタイトルは筆者が付け加えたものであり、原文にはない)  http://www.magazine9.jp/article/konohito/23097/

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2016/01/20

365 緊急事態条項 5

◆独裁国家への変化の速さ
升永弁護士のインタビューの中で、二つのことに衝撃を受けました。
一つは、5000人が逮捕されたことによって、一気に独裁国家の道を進む道が開かれたということです。反政府的な言動をとることへの恐怖が、人々の口を塞ぎ、投票行動まで縛ることになりました。

もう一つは変化の速さです。一旦、権力が集中すると、ワイマール憲法のように民主的な憲法を持っていた国であっても、1年のうちに独裁が確立し,人権が護られない国に変貌していったということです。これをナチス・ドイツに特有なことと考えてはいけません。

◆2013年からの日本の変化
この2年間の日本における変化を考えてみたら、その変化の速さに驚かざるを得ません。70年間、戦後日本の枠組みを形作ってきた現行憲法の土台を揺るがすような2つの法律が、たった2年間のうちに成立しているのです。

2013年10月 秘密保護法が閣議決定される
2013年12月 秘密保護法が成立する

2015年5月 安保法案が閣議決定される
2015年9月 安保法案がが成立する

◆生活現場での変化
昨年、2015年の秋に以下のような二つの気になるツイッター記事がありました(1)、(2)。

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その他、催し物で「平和」、「憲法」、「安保法案」などのタイトルが入っていると公民館を借りられないという話もツイッター上で散見します。数年前までは考えられないような変化です。

◆憲法違反に慣れっこ
現行憲法で、基本的人権は保障されていて、公務員はこの憲法を尊重し擁護する義務があります(99条)。それなのに、公務員である警官や公民館を管理する役所の職員が、平気でこのような対応をするのは、日本社会がそれを許容するようになってきたことの現れではないでしょうか?

その根底には、9割以上の憲法学者が「違憲」という判断を下した安保法案を強行採決で「可決」した国会があり、それを批判することなく報道するマスコミ(3)があり、マスコミの劣化に気付いていない国民の状況があるでしょう。

◆権力批判をしない記事や両論併記
たとえば安保法案の可決を報じる朝日新聞の記事です。この法案可決を擁護する表現はないにしても、議決とはほど遠い混乱状態であったこと(4)、違憲立法の可能性が高いこと、違憲の法律は効力を持たないこと(98条)などを付け加えるのが報道に携わる新聞の役割だと思うのですが、そういうことは書かずに、ただ淡々と「安全保障関連法が成立」と書くだけでした。

もしかしたら他の記事では違憲立法の指摘をしているのかもしれませんが、憲法を根底から覆すようなことが国会で行われたならば、何回でも繰り返して指摘すべきでしょう。これはクーデターに等しい事件だったのですから。

◆政府広報機関化したNHK
NHKが15日の特別委員会の審議を国会中継しなかったということを知らない人も多いでしょう。16日の本会議の国会中継も新聞のテレビ欄に記載されていなかったのですが、視聴者から苦情が寄せられたためか、午後1時から予定を変更して中継を開始したということです(※)。

我が家にはテレビがないので、私は参議院のインターネット中継(5)で審議の様子を見ていました。会議の終盤、議長が席に着席し、最後の採決をしようとする場面で「ただいま速記を中止しておりますので、音声は放送しておりません」という無音の画面になりました。無音のまま画面はたちまち混乱状態になり、議長を沢山の議員(後に自民党議員であったことが判明)が取り囲んで何かが行われている様子でした。これが後に「人間かまくら」と揶揄される安保法案が「可決」されたという場面でした。中継を見ていた国民は何が行われていたのか、全く分からなかったでしょう。

受信料をとって成り立っている「みなさまのNHK」は今や政府公報機関の様相を呈しています。しかし、それは「嘘をつく」という形ではなく、「政府に都合の悪いことは放送しない」という、ひっそりと目立たない形で行われるので、よほど問題意識を持って見ていないと分かりません

インターネット・メディアで、自分から情報を取りに行く努力をしないと、戦争中の大本営発表を聞いていた国民と同じ状況に陥ってしまいます。マスコミは当てにならなくても、今はまだ、その他の方法で情報を発信したり収集する自由がありますが、緊急事態条項によって、基本的人権が守られなくなった後にどのようになるかは容易に想像できるでしょう。

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※16.1.20の本ブログの記述「この時の国会中継をしていなかったということを知らない人も多いでしょう。」は正確ではなかったため、下線部のように訂正しました。

(1)クリスチャンの女性が「平和がだいじ」と書いた可愛らしい絵本袋を持って国会周辺を歩いていたら警官に職務質問されたそうだ。彼女が警官に「どうして聞くんですか」と聞いたら絵本袋をさして「平和って書いてあるから」と。今や「平和」は犯罪!  https://twitter.com/yasuakiadachi/status/652252680786587648

(2)ピーターバラカン氏、今日9条のTシャツを着ていたからという理由で警官に呼び止められる。40年日本にいてこんな事は初めて…。 今ラジオで。 https://twitter.com/birdsnest1971/status/654958267685179392

(3)安全保障関連法が成立 参院本会議、自公など賛成多数(朝日新聞 2015年9月19日) http://www.asahi.com/articles/ASH9M0GMCH9LUTFK02S.html
(前略)安倍首相は19日未明、同法成立を受け、首相官邸で記者団に「必要な法的基盤が整備された。今後も積極的な平和外交を推進し、万が一への備えに万全を期していきたい」と述べた。

(4)「改ざん議事録の撤回を」 参院特別委で公述のシールズ奥田氏ら訴訟も検討(東京新聞 2015年10月16日)  http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201510/CK2015101602000126.html

安全保障関連法に関する参院特別委員会が、採決を宣告する鴻池祥肇(こうのいけよしただ)委員長の発言を「聴取不能」としながら「可決すべきものと決定した」と議事録に付け加えた問題で、特別委の公聴会で公述人を務めた三人が十五日、国会内で記者会見し「議事録の改ざんと断じるほかなく、ただちに撤回すべきだ」と訴えた。採決不存在の確認を求めて、訴訟を起こすことも検討するとした。(中略)水上氏は与党議員が鴻池委員長を取り囲み、審議が再開されたことを確認できない状況で採決が行われたことを野球に例え「タイム中に突然ゲームセットになった。(後略)

(5)我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会(カレンダーで2015年9月19日の日付をクリックすると中継動画を見ることができる) http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php

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2016/01/19

364 緊急事態条項 4

引き続き、升永弁護士のインタビュー(1)の紹介とまとめです。

◆ 緊急事態宣言が事実上の分岐点
緊急事態宣言が発令されたなら、反政府的な活動は事実上そこでおしまいになる可能性があるのです。5000人の人が逮捕されたことによって、一つの国家の趨勢が決まるというのは不思議な感じがします。でも具体的な状況を想像してみれば容易に分かるでしょう。 逮捕された人は、(国会議員を含む)政治的な発言力のある人、情報発信力のある人達です。彼等が「消えた」後、残った人々にはナチスに反対する情報も届かなくなり、言論の自由も通信の秘密もない状態になるわけです。後は独裁国家にまっしぐら、その後どうなったかは皆さんご存知の通りです。

◆日本の場合
ナチス・ドイツの歴史的経緯を念頭におきながら、日本の改憲案、緊急事態条項を見た場合、そこにはどのような危険性があるのでしょうか。 日本の改憲案は緊急事態宣言と全権委任法とが合わさったようなものであり、ナチス・ドイツのそれが法律だったのに対し、自民党の緊急事態条項は憲法に新設されるものという違いがあります。

◆人権侵害が可能に
現行憲法では基本的人権が保障されていて、それが侵害される場合には違憲として訴えることができます。しかし緊急事態条項が憲法に新設されたら、それによってどのように基本的人権が侵害されたとしても、最高裁は違憲という判断を下すことはできず、法的に独裁状態を覆す手段はなくなります。

◆良い緊急事態条項ならば認めても良いか?
緊急事態条項に賛成する人達はこう言うでしょう。

「災害時のために必要なのではないか?」

「条文の文言を改良すれば良いのではないか?」

「期限をつければ良いのではないか?」

しかし、それに一つ一つ反論していては足を掬われます。どのように部分的に繕ったとしても、独裁によって人権侵害を可能にする緊急事態条項を憲法に入れてしまったら、もう後戻りすることは不可能なのです。

◆2016年夏の参院選が分岐点
今から半年が勝負です。夏の参院選で自公が改憲に必要な議席をとり、この項目が憲法に新設されてしまったら、おしまいです。野党が協力して自公に対抗する受け皿を作って、緊急事態条項の新設を食い止めないといけません。そのためには国民に緊急事態条項が「お試し改憲」などではなく、これが通れば独裁国家になるということを広く知って貰わなければなりません。
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升永弁護士のインタビューのまとめは以上です。
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(1) 2016/01/11 岩上安身による升永英俊・弁護士インタビュー ~緊急事態条項について http://iwj.co.jp/wj/open/archives/281877

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2016/01/18

363 緊急事態条項 3

緊急事態条項の条文を読んだだけでも、その恐ろしさを垣間見ることができますが、升永弁護士は「本当の恐ろしさは条文だけでは分からない。ナチス・ドイツがどのようにして、ヒットラーの独裁国家になっていったかを知らないと駄目」と、以下の歴史的事実を踏まえた上で、緊急事態条項の内容を吟味する必要性を強調します(1)。

◆緊急事態宣言の数日後に消えた5000人
まずは全権委任法が成立する前の話です。1933年1月にヒットラー内閣が成立します。1ヶ月後、国会議事堂放火事件が起こり、その翌日に緊急事態宣言が発令されました。

恐ろしいのはここからの展開です。その後、数日の間に国会議員を含む5000人もの人が「消えた」のです。ナチ党反対派の人々が「公の秩序に反する者」として、司法的手続きなしで逮捕されました。言論の自由、通信の秘密などの人権も停止されました。

◆全権委任法
ドイツが独裁国家になっていく分岐点と言われる全権委任法ですが、それが国会を通ったのは緊急事態宣言によって、反対勢力を制圧したからこそ可能になったのです。民主的手続きを踏んで合法的に成立したというのは、ある意味事実ですが、それは反対勢力が逮捕されて声をあげる手段もなかったからでした。

全権委任法は「反対したら消される」という恐怖を背景にして成立した法律なのです。このことは永井弁護士のインタビュー(2)とも重なります。

◆得票率:1年間で3割から9割に増加
全権委任法が成立した4ヶ月後(1933年7月)、ナチ党以外の政党は解党させられ、ここにナチ党の一党独裁が確立します。投票先はナチ党しか残っていないので、当然とも言えますが、その4ヶ月後(1933年11月)に行われた総選挙では、ナチ党の得票率は92%になりました。1年前(1932年11月)の総選挙でのナチ党の得票率は33%だったので、ナチ党の得票率は、わずか1年間で3割から9割に増加したということになります。

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(1)ナチス・ドイツが独裁国家になっていった経緯の記述は、以下の升永弁護士のインタビューを元にして筆者がまとめたものであり、間違いや誤解があるかもしれない。正確には以下の動画を参照のこと(完全版はIWJの会員しか見ることができない)。

2016/01/11 岩上安身による升永英俊・弁護士インタビュー ~緊急事態条項について http://iwj.co.jp/wj/open/archives/281877

(2)永井幸寿弁護士インタビュー 2015/12/19 「国家を守り、人権を制限するのが国家緊急権」  http://iwj.co.jp/wj/open/archives/279662(「原発報道あれこれ 362」(g)に抜粋。

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2016/01/17

362 緊急事態条項 2

まだまだその危険性が知られていない緊急事態条項。知人たちにメールで知らせたところ、「 緊急事態条項?知らなかった」という反応が返ってきました。

やはり、こまめに情報発信していく必要性を感じました。今のところ、政府の政策に反対する私たちの関心は「9条をまもれ!」、「原発をとめろ」、「辺野古基地移設反対」などの個別の目標に限定されていて、それらすべてが軒並み窒息させられる緊急事態条項に関しては注目されていないというのが実状だと思います。

それでは、緊急事態(第9章)に関する条項(1)、98条、99条には何が書かれているのでしょうか?以下に抜粋します。条文の中で略した部分がありますが、それは、条文が一見、国民をまもるためであるかのような、あるいは総理大臣の独裁にブレーキをかけるかのような体裁をとっている記載であり、冗長になりますので、省略しました。これらの記載が実は全くブレーキの役割を果たさないものであるということは、「原発報道あれこれ 361」の(h) 「升永英俊・弁護士インタビュー」で詳しく語られていますので、そちらをご覧下さい 。

◆条文の記述にも注意!
条文の中で特に注意を向けていただきたい記述は赤い字でマークしました。「等」、「その他」のような記述は、後々幾らでも増やしていくことができる「悪魔の追加表現」であることは、もうみなさんもご存知でしょう。「秩序」「〜の規定に関わらず」という曖昧な表現、結論が逆転したり、前に述べていたことが無効になる記述も同様です。自民改憲案では、「公の/公益の/社会)秩序」という記述で国民の人権を制限している部分(たとえば第21条)がありますが(2)、これはとても恐ろしい制限です。その前に幾ら立派なことが書いてあっても「公の秩序に反している」ということで、無効になってしまうのですから。

◆ 自民党改憲案
第98条(緊急事態の宣言)
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱による社会秩序の混乱、地震による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。(略)

第99条(緊急事態の宣言の効果)
1 緊急事態の宣言が発せられたときは、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、
地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。(略)

3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も(略)国その他公の機関の指示に従わなければならない。(略)

4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

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(1)緊急事態(第9章)

日本国憲法改正草案 Q&A(増補版)PDFファイル  https://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/kenpou_qa.pdf

(2)日本国憲法改正草案 https://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/kenpou_qa.pdf

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。

2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。

 

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2016/01/15

361 緊急事態条項 1

およそ1年半振りにブログを再開します。「まとまったものを書けるまでお休みしよう」と思っていたら、政治状況の方が坂道を転げ落ちるように悪くなっていき、今や「まとまったものを書く」などという贅沢なことを言っていられない状況になってしまいました。

◆ 断崖絶壁
私たちは今、断崖絶壁に立たされています。断崖絶壁とは、言うまでもなく、民主主義国家だと思っていた日本が、緊急事態条項を新設する改憲によって独裁国家に転落するかどうかの瀬戸際に立っているということです。

◆緊急事態条項(自民党改憲案 98条、99条)
改憲の危険性が話題にされる時、多くの人が思い浮かべるのは戦争放棄を定めた「9条」でしょう。「9条さえ手を付けられなければ安心」と思っていたら本当の危険性を見逃すことになりかねません。年末年始にかけて、安倍政権は緊急事態条項の新設に言及していて、全国紙などでは「ハードルの低いお試し改憲」などと書かれていますが、とんでもないことです!

◆万能のカードジョーカー
緊急事態条項は、IWJの岩上安身さんも言っているように「万能のカードジョーカーに等しい」もので、「その一枚を手にするだけで、憲法の他の条項を無にしてしまうことができるものです。総理大臣が全権を手に入れてしまい、国民の反対の多い9条の改正などは必要なくなってしまう」のです(http://iwj.co.jp/wj/open/archives/279662)。これは戦前の治安維持法に、あるいはナチスの全権委任法に匹敵するものです[参照(g)の解説]。こんな項目が新設されたら日本はあっというまに独裁国家になってしまいます。でも、この緊急事態条項の危険性は、まだまだ多くの人の共通認識にはなっていません。

◆独裁国家の恐怖
7月の参院選で自公が改憲に必要な議席をとり、この項目が憲法に新設されてしまったら、9条改憲など必要なくなります。全ての権限が、無期限に総理大臣に集中してしまうのですから。脱原発、安保法制の廃案を求める集会やデモなどは、「社会秩序の混乱」に当てはまるものとして、できなくなる可能性を否定できません。全ての権限が一人の権力者に集中し、無期限に続くような国がどうなるかということは、ナチスドイツのような独裁国家がどうなったかを見れば容易に想像できるでしょう。

全く、私の生きているうちに、国の行く末にこれ程の恐怖を抱く時が来るとは思ってもみませんでした。残された時間はあまりありません。安倍政権は今年の夏に行われる参議院選挙で自民党、公明党が改憲に必要な議席をとった場合、改憲に進む意向を示しています。それまでに、多くの人に緊急事態条項の危険性を知っていただかないといけません。

◆ 政府広報機関化したマスメディア
困った事に、一般国民に大きな影響力を持つテレビ、全国紙などは、いまや政府広報誌とも言うべき状態になってしまっていて、緊急事態条項の危険性に関して詳しい説明をしていません。

インターネット上、特にツイッターやFacebookでは、緊急事態条項の危険性を訴える記事が溢れていますが、所詮、閉じられた仲間内での盛り上がりということを頭に入れておかなければいけません。嘘だと思ったら、周囲の人に緊急事態条項の事を話してみて下さい。あまりよく知らないという反応が返ってくると思います。特にその危険性については、ほとんど認識されていないというのが現状かと思います。

◆様々な方法で情報共有を
私たち一人一人が周囲の人達に様々な場で、様々な方法でその危険性を伝えていくしかありません。私も友人達にできる限り、このことを伝えていこうと思っています。

緊急事態条項については、まずは以下の動画(a) (b) (c)をご覧下さい。短い動画なので、全て見ても20分くらいです。時間がある方は、(g)以下も見て頂けると幸いです。
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(a) あすわか(明日の自由を守る若手弁護士の会)作成動画6分 「憲法が変わっちゃったらどうなるの?~自民党案シミュレーション~」他 http://www.asuno-jiyuu.com/

(b) 問われる安倍政治~自民党改憲案の危険性「緊急事態条項」 (テレビ朝日「モーニングバード そもそも総研」/日付不明)- http://xtw.me/XUKRieD

(c) 2016/01/06 山本太郎議員が緊急事態条項の危険性を鋭く指摘!「これが改憲の本丸。独裁者にとっては一番手に入れたいもの」5分 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/281373

(d) 安倍政権「災害対策名目の緊急事態条項から改憲に着手」と政権幹部。でも、現代の戒厳令は超危険!(宮武嶺弁護士 ブログ) http://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/313de7d61940c9ed38e9e85821c11874

(e) 田中龍作「アベ首相のほしいままに戒厳令 緊急事態条項はこんなに怖い」(BLOGOS 2016年01月09日) http://blogos.com/article/154035/

(f) 内山 宙【9条改正よりもヤバい緊急事態条項】 https://www.facebook.com/hiroshi.uchiyama.73/posts/817222045026984

(g) 永井幸寿弁護士インタビュー 2015/12/19 「国家を守り、人権を制限するのが国家緊急権」  http://iwj.co.jp/wj/open/archives/279662

岩上「(前略)ナチスは全権委任法(授権法)で独裁を確立したというが、実は、その前に緊急令で権力を手中にした。(中略)」

永井「全権委任法とは、国会の立法権を政府に移すことですが、そんな法律は普通、議会では通りません。それを1934年2月、国会議事堂の放火を共産党の犯行とし、国家緊急権を使い、自由に制限を加え、令状なしで逮捕拘束を可能にしました。これにより、ヨーロッパで一番勢力のあった対抗野党(共産党、社会党)が壊滅。(中略)ナチス党も過半数を獲得できませんでしたが、強引に全権委任法が強行採決され、独裁を確立したのです」(後略)

(h) 2016/01/11 岩上安身による升永英俊・弁護士インタビュー ~緊急事態条項について http://iwj.co.jp/wj/open/archives/281877

(i) 澤藤統一郎の憲法日記:アベ政権の「緊急事態条項」は、ナチスの「全権委任法」にそっくりではないか http://article9.jp/wordpress/?p=6154

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2014/08/18

360 秘密保護法のパブコメ

◆秘密保護法のパブリックコメント
7月24日から秘密保護法のパブコメが募集されています(〆切は8月24日)。

「特定秘密の保護に関する法律施行令(案)」に対する意見募集の実施について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=060072402&Mode=0

とても大事なパブコメなので、是非みなさんも期限内に提出していただきたいと思います。「あれっ?秘密保護法のパブコメ?昨年、募集していたから出したけど、また出さないといけないの?」と思う方もおられるでしょう。

確かに、昨年の9月、秘密保護法に関するパブコメが募集されました。期間はわずか半月でしたが、何と9万件を越えるパブコメが集まって、反対が77%、賛成は13%だったそうです。

それでは今回のパブコメは、何のためにするのかというと、今回は(国会を通った秘密保護法の)政令および施行令案に対するパブコメなのです。前回と同様の、できれば前回を上回る件数のパブコメが集まってほしいのですが、ツイッターを見ていても、今回は出足が今一つ鈍い感じがします。

◆萎縮効果をねらった制限?
一つの理由は、前回との違いが分かりにくいということだと思いますが、もう一つの理由は、今回のパブコメには「どの項目に対しての意見か」を書かせるという制約が加わったからではないかと思います。

このような制約を加える理由は、「パブコメを論点ごとに整理するため」ということだそうですが、この制約は(その意図がどうであれ)法律文を読む作業に慣れていない一般の人々を萎縮させ、パブコメを提出しにくくさせる効果を持っていると思います。

この頃のパブコメはできるだけ提出件数を少なくするような、国民の萎縮効果をねらった制限が目立ちます。8月15日に締め切られた川内原発の再稼動に対するパブコメの際には、その意見が「科学的・技術的意見」であることが必要という制限が加えられていました。このような制限は広く国民の意見を聞くというパブコメの趣旨に沿うものではありません。

◆雇い主である国民の意見表明
公務員は国民の税金で養われている公僕である筈です。今回のパブコメも高い敷居に怯むことなく、雇い主である私たち国民が、思う所を存分に表明する機会として活用したいと思います。

原発事故の後のことを振り返ってみると,政府がいかに情報を隠そうとしてきたかということがよく分かります。集団的自衛権容認の閣議決定によって、日本は今、戦争できる国になろうと方向転換しようとしています。私たちが望まない戦争に突き進んでいくことを防ぐためには、十分な情報開示が不可欠です。

「あの時,何もしなかった...」と後で悔やむことのないように,せめて今できることだけはしておきたいと思います。

◆解決法と便利な参考サイト
「どの項目に対しての意見か」を書かせるという制約の裏にある、「何も分からない素人は黙って従え」という脅しに怯んではいけません。これに対抗するには二つ方法があります。

一つはそのような制限を全く無視して「秘密保護法は,市民の知る権利を侵害するものであり,憲法違反の法律」だというような総論を自由に書いて提出する方法です。

もう一つは,日弁連などの専門家集団が用意した雛形を利用して、適宜,自分の意見を織り交ぜながら提出する方法です。私は後者の方法をとりました。私が参照した雛形は以下の二つ(主に日弁連のもの)です。どちらの方法をとっても結構ですので、雇い主である私たちが望むことを自由に書いて提出して下さい。

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1)日弁連の雛形 http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/activity/data/secret/public-comment.pdf (こちらのサイトに様々な情報が集まっている http://www.himituho.com/

2)秘密保護法を考える市民の会の雛形 http://app.f.m-cocolog.jp/t/typecast/1973603/1981604/95704841(パブコメのタネ http://stophimitsu.cocolog-nifty.com/blog/files/pabukomenotane.pdf) 
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3)IWJのパブコメ勉強会の動画も参考になる http://iwj.co.jp/wj/open/archives/160434

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2014/08/14

359 被曝と「美味しんぼ」-3

◆隠される情報

「美味しんぼ」の中で実名で登場する前・双葉町長の井戸川氏は、IWJのインタビュー(1)の中で、いかに政府や県が原発事故の情報を隠し続けてきたか、資料に基づいて詳細に報告しています。あまりに沢山ありすぎるので、ここではその幾つかを紹介するにとどめます。

  • 福島県が拡散予測消去 当夜から受信5日分(2)
  • SPEEDI 住民に公表前、測定活用 浪江の高線量地把握(3)
  • 福島原発:県が内部被ばく検査中止要請…弘前大に昨年4月(4)
  • 子に体調異変じわり 大量の鼻血、下痢、倦怠感 「放射線と関係不明」(5)

次々と示される資料を見て愕然としました。これらの記事の中で、初めて目にするものは一つもありませんでしたから、資料の内容に驚いたわけではありません。あまりに次々と情報隠しが出てくるので、知った当初は驚いたり、怒ったりしていても、それらがひとまとまりのものとして自分の中に蓄えられていなかったことに愕然としたのです。

今、改めて井戸川氏の話の中で「国や県の情報隠し」という意味づけをされて見てみると、バラバラに散乱していた情報が、みるみる立体的な形をとって目の前に現れてきます。的を絞って情報を集め、意味づけをすることの重要さを感じました。将来「福島原発事故資料館」のようなものが作られた場合、井戸川氏の集めた分厚いファイルも図書館に納め、解説付きの資料にしてもらいたいと思いました。
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(1) 動画:2014/05/12 「すべてが『実害』」 前双葉町長・井戸川克隆氏、石原環境相の「風評被害」発言を批判~岩上安身による前双葉町長・井戸川克隆氏インタビュー   http://iwj.co.jp/wj/open/archives/139458  

(前略)井戸川氏はこれまでの講演会などの中で、政府の地震調査委員会が、東日本大震災直前の2011年2月に作成した報告書の問題を訴え続けている。政府は当初、報告書に、東北地方の津波について「いつ起きてもおかしくない」と警戒を促す記述を盛り込むことを検討しながら、委員の議論のすえ見送っていた。(後略)

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(2)福島県が拡散予測消去 当夜から受信5日分(東京新聞 2012年3月21日) http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2012032102100005.html

 東京電力福島第一原発の事故で、福島県が昨年三月十一日の事故当夜から放射性物質拡散の予測データをメールで入手しながら、十五日朝までの分をなくしていたことが県への取材で分かった。この間に1、3、4号機で相次いで爆発が起きたが、県は原発周辺の自治体にデータを示していない。県の担当者は「(データの)容量が大きすぎて、消してしまった」と話している。(後略)
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(3)SPEEDI 住民に公表前、測定活用 浪江の高線量地把握(東京新聞 2012年6月12日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2012061202100004.html

福島第一原発事故が発生した四日後の昨年三月十五日、文部科学省が緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)による予測結果を基に、原発の北西約二十キロの福島県浪江町に職員を派遣し、実際に高い放射線量を測定していたことが十一日、分かった。

 SPEEDIによる放射性物質の拡散予測が事故後初めて公表されたのは昨年三月二十三日で、住民避難に役立てられなかった予測を、政府は公表前から活用していたことになる。(後略)
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(4)福島原発:県が内部被ばく検査中止要請…弘前大に昨年4月(毎日新聞 2012年06月14日) http://mainichi.jp/select/news/20120614k0000m040121000c.html

東京電力福島第1原発事故後、福島県浪江町などで住民の内部被ばくを検査していた弘前大の調査班に、県が検査中止を求めていたことが分かった。県の担当者は事実確認できないとしつつ「当時、各方面から調査が入り『不安をあおる』との苦情もあった。各研究機関に『(調査は)慎重に』と要請しており、弘前大もその一つだと思う」と説明。調査班は「きちんと検査していれば事故の影響を正しく評価でき、住民も安心できたはずだ」と当時の県の対応を疑問視している。(後略)
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(5)子に体調異変じわり 大量の鼻血、下痢、倦怠感 「放射線と関係不明」 原発50キロ福島 原発50キロ 福島・郡山は今(東京新聞 2014年4月29日)

収束のきざしさえ見えない福島第一原発の事故。放射線汚染の範囲は拡大し、避難区域の外側でも、子どもの健康被害を不安視する声が目立ち始めた。しかし体調不良と放射線の関係には分からないことが多い。それだけえに親たちは疑心暗鬼で苦しむ。こどもを守るために今、できることとは (出田阿生)(後略)

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2014/08/11

358 被曝と「美味しんぼ」-2

◆被曝と健康被害
政府や福島県は原発事故と鼻血の関連を否定し、福島県は小学館に抗議するという事態(1a)にまで発展しました。

福島県がその抗議文の中で主張していることは、「高線量の被ばくがあった場合には鼻血が出るけれど、一般住民はこのような急性放射線症が出るような被曝はしていない」(1b)ということですが、この主張が「事故後、鼻血が出る人が居る」という事実を覆す何の論拠にもならないことは、ちょっと考えればすぐ分かることでしょう。

低線量被曝や内部被曝による健康被害に関しては、まだ分からないことだらけです。分からない段階であれば、まず事実と向き合うことから始めるのが筋でしょう。福島県は、全ての県民を対象とした「県民健康調査」、「甲状腺検査」や「ホールボディカウンター」により、県民の健康面への不安に応える取組を実施してきた、と主張していますが(1a)、「県民健康調査」(1c)の内実を知れば唖然とするばかりです。

◆健康調査の内実
福島県の健康調査の項目は、外部被曝と内部被曝を推測するだけのものであり、事故後の、何らかの体の不具合を問う項目はありませんでした。しかも、この調査の回答率はたったの25%でしかありません。他方、ウクライナ保健省と科学アカデミーの監修によって作成された「チェルノブイリ原発事故の伴う子ども及び未成年の健康モニタリングガイド」(2a, b)を見ると、調査内容の違いに目を見張ります(この日本語訳を作成し、発表した Ourplanet-TVの努力に感謝!)。

ウクライナの健康調査では、愁訴全般から始まって、様々な健康上の異常を問う項目が並んでいます。視力、聴力、骨筋、皮膚、髪の毛、爪、リンパ節、粘膜、舌、歯、扁桃、心臓、呼吸器、消化器、泌尿器、生殖器、神経系など多岐に渡り、勿論、その中には鼻血も含まれています。これを見ていると、住民の健康を本当に心配し、被曝に立ち向かおうとするウクライナの国と科学者の意志と良心を感じます。それに比べると、被曝の程度だけを調査する福島県の健康調査の、何と冷たいことでしょう。まるで被曝による健康被害は無かったという結論を導き出したいだけのものに思えてきます。

◆被曝との因果関係と表現の自由
このような「美味しんぼ」を巡る騒ぎの中で、5月15日にふくしま集団疎開裁判の会などの4団体が福島県知事宛に抗議文(3)を提出しました。その内容がとても素晴らしいものなので、ご紹介します。

「被ばくと健康被害の関係が科学的に十分解明されていないとは、或る健康被害が発生したとき、現時点の科学ではそれが被ばくの影響である(危険)とは断定できず、影響がない(安全)とも断定できないことを意味します、つまり危険の可能性を帯びた灰色だということです。それが今日の科学の到達点であり限界です。その結果、この「灰色の評価」をめぐって、限りなく黒(危険)に近い灰色から、限りなく白(安全)に近い灰色まで複数の見解が生じ得ることになります。(...)

しかし、福島県は、この「灰色の評価」をめぐって、福島県の見解と異なるというだけで、これらの見解を根拠のない噂=風評と決めつけ、「本県への風評被害を助長するものとして断固容認できず」と非難しています。それは前述した「権威の座にある人たちの気に食わない意見を発表する自由」を保障しないことにほかならず、表現の自由に対する重大な侵害です。(...)


福島第一原発事故の後、福島の人たちの間で、鼻血が多発したのは明白な事実です。そのことについては多くの記録があります。そして、人々がその原因が放射能ではないかと考えたのも当然のことです。福島県が今回公表された見解は、今、福島で、放射能に対する不安を抱きながら生活している人たちが、自由な意見表明をすることを抑圧する結果を生じさせます。それは、福島の人たちを二重に苦しめるものです。「物言えば唇寒し」の社会を作ってはなりません。

この抗議文には今後、被曝のことが話題になる時に、座標軸となる考え方が示されていますので、皆さんも是非、参照元にアクセスして全文をお読みになって下さい。この抗議文の連絡先になっている弁護士・井戸謙一氏は、2006年、志賀原発差し止め訴訟で原告勝利の判決を出した元裁判官だということです。このような裁判長が居たということ、退官した後もこのような活動を続けているということに希望を感じます。
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(1a)抗議文『週刊ビッグコミックスピリッツ「美味しんぼ」に関する本県の対応について』2014年5月12日  http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/01010d/20140512.html

(前略)県では、これまで全ての県民を対象とした「県民健康調査」、「甲状腺検査」や「ホールボディカウンター」等により、県民の皆様の健康面への不安に応える取組を実施してまいりました。(中略)

このような中、「週刊ビッグコミックスピリッツ」4月28日及び5月12日発売号の「美味しんぼ」の表現は、福島県民そして本県を応援いただいている国内外の方々の心情を全く顧みず、深く傷つけるものであり、(中略)総じて本県への風評被害を助長するものとして断固容認できず、極めて遺憾であります。

 「美味しんぼ」及び株式会社小学館が出版する出版物に関して、本県の見解を含めて、国、市町村、生産者団体、放射線医学を専門とする医療機関や大学等高等教育機関、国連を始めとする国際的な科学機関などから、科学的知見や多様な意見・見解を、丁寧かつ綿密に取材・調査された上で、偏らない客観的な事実を基にした表現とするよう強く申し入れております。(後略)

(1b)「週刊ビッグコミックスピリッツ」4月28日及び5月12日発売号における 「美味しんぼ」について」
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/63423.pdf

(前略)「週刊ビッグコミックスピリッツ」4月28日及び5月12日発売号の「美味しんぼ」において表現されている主な内容について本県の見解をお示しします。まず、登場人物が放射線の影響により鼻血が出るとありますが、高線量の被ばくがあった場合、血小板減少により、日常的に刺激を受けやすい歯茎や腸管からの出血や皮下出血とともに鼻血が起こりますが、県内外に避難されている方も含め一般住民は、このような急性放射線症が出るような被ばくはしておりません。また、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書(4月2日公表)においても、今回の事故による被ばくは、こうした影響が現れる線量からははるかに低いとされております。(後略)

(1c)県民健康調査 基本調査「詳細版問診票(見本)」  http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkokanri-kihon.html
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(2a)「チェルノブイリ・子どもの健康診断手引き」日本語版を公開(ourplanet 2014年08月03日)  http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1815

OurPlanetTVが、(ウクライナ)保健省のチェルノブイリ事故放射線防護局長よから入手した「チェルノブイリ原発事故の伴う子ども及び未成年の健康モニタリングガイド」の日本版が完成しました。

この冊子は、2003年に(ウクライナ)保健省と科学アカデミーの監修によって作成されたもので、チェルノブイリ原発事故の被害にあった子どもたちに対する健康診断に関する詳細が記載されています。また付録には、子どもの健康診断時に医師が記入する用紙が10ページにわたって掲載されています。(中略)

(2b)「チェルノブイリ原発事故の伴う子ども及び未成年の健康モニタリングガイド」日本語版 http://www.ourplanet-tv.org/files/momitoringguide.pdf

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(3)【声明】漫画「美味しんぼ」の表現の自由を抑圧する福島県に抗議する
2014年5月15日木曜日 「ふくしま集団疎開裁判の会」  http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2014/05/blog-post.html

(前略)去る4月28日と5月12日に発売された雑誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載の漫画「美味しんぼ」に福島県双葉町の前町長や福島大学の准教授が実名で登場し発言した内容をめぐって物議をかもしています。
 およそ良識を備えた人なら、次の認識は共有できるものです。「被ばくによる人体への影響は、いまも科学的に十分解明されていないことが多くあり‥‥内部被曝によって起こる病気や症状のほとんどが、明らかに外部から被曝していない人にも発症するものだということです。それでいて、原因が被曝によるものだと特定する検査方法が確立されていませんから、病院に行ってもよほどのことがない限り、それが被曝によるものだと確定診断されることはありません」(1991年から5年半チェルノブイリに医療支援活動を行った菅谷昭松本市長「原発事故と甲状腺がん」52頁)

被ばくと健康被害の関係が科学的に十分解明されていないとは、或る健康被害が発生したとき、現時点の科学ではそれが被ばくの影響である(危険)とは断定できず、影響がない(安全)とも断定できないことを意味します、つまり危険の可能性を帯びた灰色だということです。それが今日の科学の到達点であり限界です。その結果、この「灰色の評価」をめぐって、限りなく黒(危険)に近い灰色から、限りなく白(安全)に近い灰色まで複数の見解が生じ得ることになります。

 前述の「美味しんぼ」に紹介された双葉町の前町長や福島大学の准教授の見解も今日の科学の限界を踏まえて、自身の被ばく体験と同様の境遇に置かれた市民たちから得た情報から導かれる範囲で、自身の見解を述べたものであって、根拠のない噂=風評ではありません。事実、被ばくの鼻血と関係を明言する専門家(西尾正道北海道がんセンター名誉院長)もいれば、除染の効果が十分上がらないことがチェルノブイリで証明済みであることもつとに指摘されている専門家も存在します(菅谷昭松本市長「これから100年放射能と付き合うために」67頁以下)。

 しかし、福島県は、この「灰色の評価」をめぐって、福島県の見解と異なるというだけで、これらの見解を根拠のない噂=風評と決めつけ、「本県への風評被害を助長するものとして断固容認できず」と非難しています(->こちら)。
それは前述した「権威の座にある人たちの気に食わない意見を発表する自由」を保障しないことにほかならず、表現の自由に対する重大な侵害です。
のみならず、双葉町の前町長や福島大学の准教授の見解は彼らの個人的な見解にとどまらず、世界で最も過酷な「福島の現実」と向き合おうとしている多くの人たちにとって注目し共感せずにおれない重要な見解です。福島県の非難は、こうした人々の声を上げる自由をも抑圧するものであり、民主主義社会の基盤である自由な発言と討論の広場を奪う結果になっているという由々しき事態を深く自覚すべきです。

 福島第一原発事故の後、福島の人たちの間で、鼻血が多発したのは明白な事実です。そのことについては多くの記録があります。そして、人々がその原因が放射能ではないかと考えたのも当然のことです。福島県が今回公表された見解は、今、福島で、放射能に対する不安を抱きながら生活している人たちが、自由な意見表明をすることを抑圧する結果を生じさせます。それは、福島の人たちを二重に苦しめるものです。「物言えば唇寒し」の社会を作ってはなりません。

以上より、私たちは、福島県のかかる侵害行為は断固容認できず、ここに厳重な抗議を表明すると共に、ただちに福島県の抗議を撤回することを求めるものです。

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2014/08/10

357 被曝と「美味しんぼ」-1

◆隠される被曝被害の実態
前回、私は「福島原発事故の後、失敗の結果の被害がどの程度のものであるかについて、私たちは身をもって知ることになりました」と書いたのですが、実は被害の実態でさえまだ分かっていないというのが本当のところです。

新幹線の事故、飛行機墜落事故であれば、物的であれ人的であれ、その被害はすぐに明らかになり、結論に異論が出ることはありません。しかし原発事故の場合、何を被害とするかという問題から話は始まります。

たとえば福島原発事故の場合、人的被害はもちろんのこと、物的被害に関してさえ詳細は明らかになっていません。強い放射能汚染のため、現場に近づくことができず、3年半経った今でも現場検証ができないためです(原発事故を新幹線事故と同様に論じる原子力村の方々は、率先して現場検証に赴くべきです)。

ごく当たり前の事をまず確認しておきましょう。
原発事故を飛行機事故などと同様に扱うことができないのは、放射能の危険、すなわち被曝の危険があるからです。つまり原発であれ、原爆であれ、原子力を利用し続けようと目論む人々にとって、被曝の被害というものは本質的に、一般国民には知られたくない秘密情報であり、隠し続けたいものなのです。更に言えば物的被害と違って、被曝の被害は、それが原発事故による放射能汚染によるものかどうか、確定することができません。

マンガ「美味しんぼ」で描かれた鼻血の描写(1)が、なぜあれほど騒がれる問題になったのかということは、このような背景を考えないと理解できません。

◆「直ちに影響がない」被曝
事故直後、枝野経産省大臣が「直ちに影響がない」と発言したことは有名ですが、この言葉は被曝の問題の核心を突いた表現だと思います。被曝と健康被害の関係は科学的に十分解明されていず、検査方法も確立されていませんし、データの蓄積も十分ではありませんから、健康が損なわれた時、それが被曝によるものかどうかは明らかになりません。それを良いことに、失敗を無かったことにして責任を回避しようとする人々は、被曝関連の情報そのものを隠そうとします(秘密保護法がそれに利用される心配も十分あります)。

被曝と健康被害の関係を否定したいのは、原発事故の責任者だけではありません。私たちの心の中にも、何らかの体の不具合があった時、それが被曝によるものだと認めたくない気持があります。被曝が原因である場合、避難移住をする困難さは勿論のこと、汚染食材を避けることだけでさえ、生活を根底から変える必要に迫られ、大変な経済的、精神的負担を覚悟しなければなりません。

「美味しんぼ」があれほどの騒ぎを起こしたのは、その内容が「見たくない現実」を見るように迫る内容だったからでしょう。それは被害者である国民の側からも反感を呼び、人々は「デマ、風評被害」という言葉でマンガの内容を批判することで、見たくない現実を覆い隠そうとしたのです。

◆事実まで隠蔽する怖さ
被曝と健康被害を認めたくない気持は良く分かるとしても、「美味しんぼ」騒ぎの中で私が一番怖いと思ったのは、鼻血が出る人が居るということ、それ自体を嘘だという人々が居たことです。

「私も鼻血が出ます。(...)福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけです」という前・双葉町長の井戸川氏の発言が「美味しんぼ」の中で紹介されています(2)。この発言に対して、「周囲には(鼻血を出すような人は)いない」という双葉住民からの批判・攻撃があり(3)、その批判に対して、井戸川氏がFacebookで毎日、自分の鼻血を写真でアップ(4)して、反論するというやりとりがありました。

鼻血が出ると証言する人を攻撃するということは、健康被害と被曝との関連を疑うこととは全く次元の違う話です。原発事故の後、健康被害があった場合、本来ならきちんとデータをとって、将来に備えなければならない筈なのに、このような周囲からの圧力によって、それができなくなる怖れも出てきます。私たちが闘わなければならないのは、目に見えない放射能という厄介な敵だけでなく、被曝による健康被害を認めたくない人々でもあるのです。

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(1)美味しんぼ「鼻血、医学的根拠ある」 専門家ら反論会見(朝日新聞 2014年5月24日)  http://www.asahi.com/articles/ASG5R517DG5RUGTB00R.html

人気漫画「美味しんぼ」で東京電力福島第一原発事故後の鼻血の頻発などが描かれたことをめぐり、専門家や健康被害を訴える当事者が23日、国会内で記者会見を開いた。政府や福島県が「風評被害を助長する」などとして事故と鼻血の関連を否定していることに対し、「因果関係は否定できない」と反論した(後略)。
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(2)「美味しんぼ」画像 https://pbs.twimg.com/media/BmRoDH9CMAAlGss.jpg
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(3)双葉住民「周囲にはいない」 美味しんぼ“鼻血”に批判
(2014年4月30日 福島民友新聞)

小学館の漫画誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」の28日発売号に掲載された人気漫画「美味(おい)しんぼ」の中に、東京電力福島第1原発を訪れた主人公らが原因不明の鼻血を出す場面があり、同誌編集部に「風評被害を助長する内容ではないか」などとする批判が相次いで寄せられていることが29日までに分かった。

双葉町からいわき市の仮設住宅に避難する直売所経営松本正道さん(50)は
「原発事故以降、双葉町には何度も入っているが、鼻血や体のだるさを覚えたことはないし、周囲でそのようなことを訴えている人もいない」と指摘。 (後略)
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(4)前・福島県双葉町長の井戸川克隆氏のFacebook 
(4a)画像 https://ja-jp.facebook.com/i8.katsutaka/posts/235452536649514
(4b)記事 https://www.facebook.com/i8.katsutaka/posts/235391146655653

(前略)夕べから今朝にかけて鼻血がいつもより多いですね。何枚も写真に収めています、美味しんぼの漫画に環境省が異常なほど反応していますがこれは彼らが福島で安心キャンペーンの嘘がバレるために躍起になって否定をしているからです、嘘をついていなければ漫画がどうしたと平静でいられるものです。

(中略)県民の避難を中断させたのは県民を守らなければならない県庁です、この非難を避けるために除染をすれば住めると言う事で収めようとしました。

しかしこの効果が出ないと住民から苦情が出た時に中間貯蔵施設が出来ないからだとまた嘘をつきました。

それも進まないから今度は住む基準を引き上げて帰還させて事故処理を終わらせようとしています、この事で県民の承諾を取り付けたのでしょうか?(中略)

その結果福島で囁かれる言葉は「頑張ろう、風評被害、発災」で県民が自己責任でこの世界最大の放射の事件を小さく解決させようとされているのです、県民の皆さんは被害者なのです、大きな損害の被害者です、自分で想定しましょう自分の損害を、決して小さくありません。(中略)

私は事故当時から被曝の問題を多くの人やメディアの前で言い続けてきました、誰も取り上げようとはしなかっただけです、そのため苦汁を飲んで悔しい気持ちでいました。

もっと早く大きな争点になっていればあのように多くの子供の甲状腺被害を少なく出来たでしょう。私にも甲状腺にしこりがあります。(後略)

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2014/08/05

356 大飯原発差し止め訴訟-8

◆「安全な原発」の完成までの道のり─失敗の結果の被害

「失敗を乗り越えてこそ科学技術の発展がある」と言う事それ自体に疑問を持つ人は居ないでしょう。「飛行機だって危険です。時々は事故を起こします。でもだからといってあなたは、飛行機を飛ばさないとか、飛行機には乗らないとか言わないでしょう?」と問われれば、返す言葉が見つからず、黙ってしまう人もいたでしょう。

反論することもできずに黙ってしまったのは、「安全な原発」の完成に必要な失敗の件数と、失敗の結果の被害がどの程度のものであるかを知らなかったからです。私たち国民はそういうこと一切を知らされないまま「絶対事故は起きない」と思い込まされてきたのです。

◆「安全な原発」の完成までの道のり─失敗の件数

福島原発事故の後、失敗の結果の被害がどの程度のものであるかについて、私たちは身をもって知ることになりましたが、「安全な原発」の完成に必要な失敗の件数がどの程度のものであるかについては、ほとんど知らされていないと思います。勿論、正確な件数はたとえ技術者であれ、誰にも分かるわけはありませんが、どの位の失敗件数を経て完成に近づくのかという、ごく漠然としたイメージでさえ持っていないのではないかと思います。

安倍首相は原発輸出の際に「過酷な教訓を世界と共有し、原子力安全の向上に貢献していくことは日本の責務だ」と発言していますが(1)、まるで福島原発事故があったが故に、日本の原発はより安全なものになったと言わんばかりです。

首相の認識がこの程度のものであるのですから、福島原発事故の後でさえ、原発立地自治体の住民がこう考えて再稼動を願うのは当然とも言えます。
「あれ程の事故があったのだから、国だって電力会社だって、今度は念には念を入れ、安全対策をとっている筈だ...」

本当にそう考えて良いのでしょうか?こういう時こそ、専門家に登場してもらって、その意見を聞く必要があるでしょう。まずは、元東芝原子炉格納容器設計者である後藤政志氏の言葉です(2)。

「炉心溶融事故は確かに滅多には起こりませんが、起こってしまった。失敗を乗り越えるために、技術的工夫をする。しかしまた起こってしまう。それで工夫を重ねる。それを何百回も重ねれば、比較的安全なプラントができるかもしれません。しかしそのころは地球上は放射能の海で住めるところはなくなります。

次は材料工学研究者であった平智之氏の言葉です(3)。

「原発はそんなふうに試行錯誤ができる装置ではないことです。これまでに造られた原発は世界的にも400基ほど。試行錯誤の数としては全く足りません。もっと多くの原発を造り、もっと多くの失敗を重ねないと技術的には高まりません。しかしそんなことができないのは言うまでもありません。技術が完成するより前に、地球が放射能に汚染され人が住めなくなってしまいます。

原子力発電所の過酷事故は、セラフィールド(1957年)、チェルノブイリ(1986年)、スリーマイルズ島(1979年)、福島第一(2011年)など、まだ数回でしかありません。こう言うと「数回しか?冗談じゃない!原発事故なんて、1回で沢山だ。福島の悲劇をどう思っているのか!」と激怒する方々が沢山居る筈です。これが普通の市民感覚です。

一方で自動車や飛行機の事故は受け入れられて技術の発展は進むのに、もう一方の原発事故は受け入れられず、技術の発展は進まない...この違いはどこにあるのでしょうか?今更このような問いを発する必要があるのは情けないことではありますが、原発輸出の際の安倍首相の発言にしろ、澤昭裕氏の新幹線との比較にしろ、このような原発擁護発言が出てくる状況では、この際はっきりさせておくべき事かと思います。お二人に限らず、この論理で原発擁護をする人達には、次の後藤政志氏の言葉(2)をよく噛みしめてほしいものです。

「原発の炉心溶融のような事故は失敗したら終わりなのです。失敗から学ぶことなどできないのです。(...)失敗を許さない技術は技術ではないのです。だから原発の技術を他の技術と一緒にしてはいけないのです。」

何百回という失敗と事故の後に安全な原発が完成したとして、その時には地球は人間の住める場所ではなくなっているでしょう。そんな未来と引き替えに電気を作り出さなければならないなんて、誰が承伏できるでしょうか。
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(1)首相外遊と原発 信頼に応え世界で受注を(産経新聞 2013.5.6)

http://b.hatena.ne.jp/entry/sankei.jp.msn.com/politics/news/130506/plc13050603080003-n1.htm

 安倍晋三首相の中東歴訪は、高い成長が見込まれる新興市場を官民一体で開拓する大きな足がかりを築いた。とくに原発輸出では具体的な成果を挙げた。(中略)
 トルコでは、協定締結に加え、三菱重工業・仏アレバ連合への原発建設の排他的交渉権が与えられ、事実上の受注が決まった。
 日本は、同じ地震国のトルコはじめ各国で技術が評価されていることを自覚し、福島第1原発事故の経験を生かして、海外での信頼に応える必要がある。そのためにも国内の原発再稼働を躊躇(ちゅうちょ)してはならない。
 安倍首相はトルコでの記者会見で、「過酷な教訓を世界と共有し、原子力安全の向上に貢献していくことは日本の責務だ」と述べ、今後も原発の輸出を積極的に進めていく考えを示した。(後略)
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(2)後藤政志「原子力発電所の真実を語る」(2013年3月30日 福井から原発を止める裁判の会主催講演会)
動画 http://www.youtube.com/watch?v=7DgSaLgd1rc
文字起こし  http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/c/5384829754d44d2c2417063e6a9a0806

(前略)さらに失敗から学ぶという考えがあります。(中略)技術において失敗の問題は非常に重要なのです。(中略)確かにどんな技術も失敗を乗り越えて発展していきます。しかし原発ではどうか。まったくナンセンスです。炉心溶融事故は確かに滅多には起こりませんが、起こってしまった。失敗を乗り越えるために、技術的工夫をする。しかしまた起こってしまう。それで工夫を重ねる。それを何百回も重ねれば、比較的安全なプラントができるかもしれません。しかしそのころは地球上は放射能の海で住めるところはなくなります。(中略)原発の炉心溶融のような事故は失敗したら終わりなのです。失敗から学ぶことなどできないのです。そこは矛盾しているのです。技術は失敗の上に成り立つからです。失敗を許さない技術は技術ではないのです。だから原発の技術を他の技術と一緒にしてはいけないのです。(後略)
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(3)「電力は足りた。即時廃炉を」−−平智之衆院議員インタビュー(毎日新聞 2012年9月24日)  http://blogs.yahoo.co.jp/sayuri2525maria/32683183.html

(前略)
−−原発の危機管理の機能をもっと向上させることはできないのでしょうか。

平 その技術開発は、原発においては困難です。飛行機を例にとりましょう。飛行機は推進し続けないと落ちてしまいますね。だから、推進力を失わないように技術革新を繰り返し、今のように安全性の高い乗り物になりました。その間、もちろん事故はありました。しかし試行錯誤のたまもの、「失敗は成功のもと」で技術が向上してきたのです。

つまり社会はそういう失敗について悲劇ではあるけれども、許容範囲内として認めてきたのでした。墜落して多くの人が亡くなったから、飛行機という技術の開発をやめようということになりませんでした。原発も、もしかするとこれから数々の失敗を経験し試行錯誤を重ねたら、もっと安全な装置になるかもしれません。

問題は、原発はそんなふうに試行錯誤ができる装置ではないことです。これまでに造られた原発は世界的にも400基ほど。試行錯誤の数としては全く足りません。もっと多くの原発を造り、もっと多くの失敗を重ねないと技術的には高まりません。しかしそんなことができないのは言うまでもありません。技術が完成するより前に、地球が放射能に汚染され人が住めなくなってしまいます。原発はまだ、そのレベルの技術なのです。なのに絶対安全と言ってきた。完成度の点でははるかに高い飛行機でさえ、絶対落ちないなどとは言っていません。(後略)

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2014/08/04

355 大飯原発差し止め訴訟-7

◆失敗は科学技術の発展に不可欠

3回に渡って、素人目線による「大飯原発差し止め訴訟」の判決文要旨(1)の口語意訳をしてきましたが、それは一応終わりにいたします。裁判所が原発再稼動を差し止める理由としては、これを上回る内容のものは考えられないと思うほど見事な判決文であり、原発を維持する人々の主張の主要な論点はことごとく覆されていると思います。

ただ一つ、付け加えておいた方が良いと思われるのは、「失敗を乗り越えてこそ科学技術の発展がある」という主張に対する反論です。この主張は、原発を維持した方が良いと考える人々から繰り返し口にされてきた言い分です。

この主張として有名なのは、吉本隆明氏のインタビュー「「反原発」で猿になる!」発言(2a)です。2012年1月、このインタビュー記事が出た時には、思想家でもあり評論家でもある吉本隆明氏の原発推進論として、ネット上で大変な話題になりました。

もっとも、このインタビューの言葉全てが吉本隆明氏が言ったことかどうかは、今となっては知ることはできません。このインタビューが行われたのは吉本隆明氏の最晩年であり(2012年3月16日死去)、吉本隆明氏の娘である吉本ばなな氏(小説家)の「私が話したときは基本的に賛成派ではなく(...)まとめる人の意訳(の可能性がある)」というツイッターでの指摘(2b)もありますので、このインタビュー記事は、単に「失敗を乗り越えてこそ科学技術の発展がある」という主張の代表的な発言としてのみとりあげることにいたします。

同様の主張は、2012年、大飯原発の再稼動に際しての野田首相の発言(3)にも登場し、最近ではこの「差し止め訴訟」の判決が出た1週間後のテレビで、澤昭裕氏(21世紀政策研究所研究主幹)の発言(4)にも出てきます。彼等の言い分をまとめると、次のような主張になるでしょう。

「自動車だって、火力発電所だって事故を起こし、それで亡くなる人がいる。しかし、それで自動車に乗らない、あるいは火力発電所を無くしてしまえという話にはならない。科学技術というのは失敗を繰り返して発展していくものであり、今回の失敗に学んで、更に安全な原発を作っていくべきだ。」

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(1)【速報】大飯原発運転差止請求事件判決要旨全文を掲載します (2014年5月21日 NPJ訟廷日誌)  http://www.news-pj.net/diary/1001 ----------------------------------------
(2a)「吉本隆明」2時間インタビュー「反原発」で猿になる!
(週刊新潮 2012年1月5日、12日号)
http://nikkidoku.exblog.jp/17206861/

(前略)今回、改めて根底から問われなくてはいけないのは、人類が積み上げてきた科学の成果を一度の事故で放棄していいのか、ということなんです。 考えてもみてください。自動車だって事故だって亡くなる人が大勢いますが、だからといって車を無くしてしまえという話にはならないでしょう。ある技術があって、そのために損害が出たからといって廃止するのは、人間が進歩することによって文明を築いてきたという近代の考え方を否定するものです。 そして技術の側にも問題がある。専門家は原発事故に対して被害を出さないやり方を徹底して研究し、どう実行するべきなのか、今だからこそ議論を始めなくてはならないのに、その問題に回答することなしに沈黙してしまったり、中には反対論に同調する人たちがいる。専門家である彼らまで“危ない”と言い出して素人の論理に同調するのは「悪」だとさえ思います。(中略) だとすれば、我々が今すべきは、原発を止めてしまうことではなく、完璧に近いほどの放射線に対する防御策を改めて講じることです。新型の原子炉を開発する資金と同じくらいの金をかけて、放射線を防ぐ技術を開発するしかない。(後略)

(2b)よしもとばなな ‏@y_banana
https://twitter.com/y_banana/status/154970250935402496
父のことですが、もうあまりちゃんと話ができないので、まとめる人の意訳があるかと。私が話したときは基本的に賛成派ではなく廃炉と管理に人類の英知を使うべきだ的な内容ではないかと察します。一部をとりあげて問題にするのはどうかやめてください。父は静かに介護生活をしていますので。 
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(3) 大飯再稼働、首相「国民生活守るための判断」 (日本経済新聞 2012/6/8)  
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS0803W_Y2A600C1MM8000/

野田佳彦首相は8日夕、首相官邸で記者会見し、関西電力大飯原子力発電所3、4号機(福井県おおい町)の再稼働が必要だと明言した。「国民の生活を守るために再稼働すべきだというのが私の判断だ」と表明。日常生活だけでなく経済活動やエネルギー安全保障の視点からも原発なしでは日本社会は立ち行かないとして「原発は重要な電源だ」と強調した。(中略) 政府は大飯原発を再稼働しなければ関電管内の電力不足率が、猛暑が続いた一昨年夏に比べ最大で約15%と算定している。首相は会見で「原発を止めたままでは日本社会は立ち行かない」と指摘。「計画停電になれば日常生活や経済活動は大きく混乱する。事態回避に最善を尽くさなければならない」と訴えた。  同時に「安全性を確保し、さらに高めていく努力を不断に追求することも約束する」と語った。(後略) ----------------------------------------
(4)<大飯原発再稼働差し止め判決>「新幹線の事故と原発の事故」澤昭裕氏・小出裕章氏 (2014年5月29日 テレビ朝日モーニングバードそもそも総研)  http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-3747.html

(前略)裁判所のロジックというのは非常に乱暴で、具体的な危険が少しでもあれば何をやってもダメだというロジックになってしまう(中略) たとえば南海トラフ地震が起きたとしますよ。(中略)その東海地方全部に新幹線がどこかで走っている訳ですから...(中略)脱線とかね。そうすると、その近隣の住民から新幹線を止めてくれという差し止め請求が来た場合に(中略)「新幹線は止める」というロジックになってしまう訳です。(後略)

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2014/08/03

354 大飯原発差し止め訴訟-6

今日もまた「大飯原発差し止め訴訟」の判決文要旨を基にした口語意訳を続けます。判決要旨の初めの部分は理念的な内容だったので、それをほぼ口語にするだけで済みました。しかし具体的、技術的な部分に関わる「7. 使用済み核燃料の危険性」では、普通の人にも分かって貰えるように、村田光平氏の発言(1)と、小出裕章氏の解説(2)を参考にして、判決文には書いていない事も加筆説明いたしました。

村田光平氏は元・スイス大使だった方ですが、福島原子力発電所の事故の後、4号機の危険性を訴えるために、2012年、参院予算委員会の公聴会に公述人として意見を述べました。京都大学原子炉実験所の助教である小出裕章氏に関しては、もう皆さんよくご存知だとは思いますが、様々な機会に4号機の危険性に関しても警告を発しています。

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7. 使用済み核燃料の危険性
原子力発電所の事故で危険なのは、稼働中の原子炉だけではありません。実は、福島原発事故の時、専門家の間で一番心配されたのは、使用済み核燃料を納めている4号機の崩壊でした。

倒壊によって核燃料プールの水が流れ出てしまえば、燃料棒が空気中にむき出しになり、溶け出した燃料棒によって、周囲が大変な放射能で汚染されてしまいます。福島原子力発電所から250キロメートルも離れた、東京や横浜にまで汚染が拡がり、その影響は数十年にも及ぶということが心配されました。

大飯原子力発電所でも、1000本を超える使用済み核燃料は核燃料プールに置かれているのですが、地震などによって使用済み核燃料プールから放射性物質が漏れた場合、それを防ぐための頑丈な設備はありません。放射能汚染を防ぐためには、使用済み核燃料に関しても、放射能を閉じ込めることができるような頑丈な設備を作っておくべきでしょう。

しかし電力会社はそのような設備を作ることをせず、従来通り核燃料プールの水の中に入れておけば十分だという主張をしています。確かに使用済み核燃料は発電すれば毎日溜まっていくものであり、放射能を閉じ込めるための頑丈な設備を作るのには大変なお金がかかります。しかし国民の命を放射能汚染の危険から守るという考えに立つならば、たとえお金がかかっても作るべき設備であるはずです。電力会社がそれをしないのは、この原子力発電所の安全設備や安全技術が、科学的根拠のない、その場しのぎの楽観的な見通しのもとに成り立っているものだからだと判断せざるをえません。

8. 人の命と発電コスト、国富の喪失とは何か
電力会社は安くて安定した電気を生み出せるという理由で、再稼動を求めています。しかし多くの人の命と生活に関わる権利の問題と、電気代のコストの高低の問題とは、そもそも次元の違った問題である筈です。価値からしても全く違ったこの二つの問題を並べ比べて判断すること自体、法的には許されないことなのです。

また、電力会社は原子力発電所を動かす理由として「動かさなければ日本が貧しくなる」と主張しています。原子力発電所が止まったままだと、火力発電所に頼らなくてはならなくなり、その結果、原油の輸入が増えて貿易赤字になるために、国が貧しくなるというというのです。

しかし、ここで考えなければならないのは、本当の「国の豊かさ」とは何なのかということです。たとえ電気代が上がって貿易赤字になったとしても、豊かな国土に国民が安心して生活していかれるならば、それが本当の豊かさだと言えるでしょう。その反対に、原子力発電所の事故によって、この日本の豊かな自然と国土が失われ、取り戻すことができなくなれば、それこそ日本という国の冨は失われてしまうことになるでしょう。

9. 環境汚染と原発
電力会社は再稼動のもう一つの理由として、CO2を出さない原子力発電は環境保護の面で優れているということをあげています。しかし、原子力発電所で過酷事故が起こった場合の環境汚染というものは、 CO2による環境汚染とは比較にならないほどの深刻なものであり、そのことを私たちは福島原子力発電所の事故で身をもって知ることになりました。

我が国始まって以来、最大の公害、環境汚染である福島原発事故の事を考えてみた場合、環境保護の面で優れているということを理由にして原子力発電所を動かそうとすることは、全く筋違いな言い分だというしかありません。
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(1)参議院インターネット審議中継(2012年3月22日) http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php
http://www.youtube.com/watch?v=9bq81boQL_Y

※文字起こし (脱原発に躊躇するというのは倫理の欠如という誹りを免れない) http://kaleido11.blog111.fc2.com/blog-entry-1198.html
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(2)小出裕章「冷温停止はもう出来ない」テレビ朝日モーニングバード 2011.12.29「そもそも総研」動画と文字起こし
http://kaleido11.blog111.fc2.com/blog-entry-1055.html

(前略)小出助教:私が恐れているのは“地震”ですし、多分、東京電力もそれを恐れていて、4号機プールが崩壊してしまうかもしれないということで、プールを支える柱とか壁とかの補強工事を、かなり長い時間かけてやったと思います。プール自身が崩壊するようなことになれば、水がもちろん流れちゃうわけですし、燃料棒が空気中にむき出しになりますので、そうなれば溶けてしまいます。
(溶けてしまえば、計り知れない量の放射性物質が大気中に)飛び出してきてしまいます。ですから、4号危機はきわどい状態にあると思いますし、そのプールを崩壊させないようなことはやらなくてはいけないと思います。(後略)

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2014/08/02

353 大飯原発差し止め訴訟-5

今日もまた「大飯原発差し止め訴訟」の判決文要旨(1)を基にした口語意訳を続けましょう。原発事故の特殊性に関して述べた「5. 運転停止しても拡大する原発事故」では、材料工学を研究していた立場から原発の危険性を指摘している平智之氏の説明(3)をもとにして、原子力発電所の特別な危険性ついて書きました。

勿論、このような記述は判決文にはないものですが、判決文の「原子力発電においてはそこで発出されるエネルギーは極めて膨大であるため」という記述が何を意味しているのかが分からないと、原発の特別な危険性を分かってもらいにくいのではないかと思って付け加えました。平智之氏の説明は、それを誰にでも分かる単純な原理で説明しているものであり、みなさんに是非読んでいただきたいと思った次第です。
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5. 運転停止しても拡大する原発事故
水を沸騰させて蒸気の力でタービンを廻すという点では、火力発電所も原子力発電所も同じ仕組みを利用しています。しかしこの二つの発電所の事故の危険性を比べた場合、そこには大きな違いがあることが分かります。

火力発電所の場合には、事故が起こっても運転を停止して鎮火すれば、事故は収束に向かいます(2)。しかし原子力発電所の場合は制御棒を入れて運転を停止するということが「鎮火」を意味しません。冷却装置が止まったらそこからが事故の始まりなのです。

核燃料を包んでいる圧力容器の材料である鉄は1000度で溶け落ちます。核燃料は放っておいたら2700度まで熱くなります。圧力容器が溶けないように常に水で冷やし続けることで、綱渡りのようなバランスを保っているのです。冷却装置が止まったら、このバランスが崩れ、原子炉の温度は上昇を続け、必ずメルトダウンに至ります(3)。

このように、原子力発電所というものは、ひとたび過酷事故が発生した後は、時間が経つにつれて収束するどころか、ますます被害が拡大して行くという点にその特徴があります。

6. 地震の発生の予知は不可能
運転を停止した後でも、原子炉を冷やし続けなければ過酷事故につながるというのが原子力発電所事故の怖いところです。それくらい大事な冷却装置ではありますが、巨大地震が来た時には壊れてしまって役に立たなくなるという問題点を持っていて、それは電力会社も認めています。

そうであるならば、巨大地震が来るかどうかということは、原子力発電所を動かして良いかどうかと切っても切り離せない関係にある筈です。電力会社は「大飯原発には巨大地震は来ないだろう」という前提に立って原子力発電所を動かそうとしています。

しかし日本の地震学の研究者たちが巨大地震を予知した事は、これまで一度もありませんでした。したがって電力会社の主張する「大飯原発には巨大地震は来ないだろう」という前提は何の科学的根拠も持たず、単に原子力発電を動かすための方便に過ぎないと言わざるを得ません。

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(1)【速報】大飯原発運転差止請求事件判決要旨全文を掲載します
(2014年5月21日 NPJ訟廷日誌)  http://www.news-pj.net/diary/1001
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(2) 1987年5月26日、東京都品川区にある東京電力大井火力発電所において発生した火災事故は、死者4名、鎮火までに2時間かかる大事故だった。
参照:「危険物施設における事故防止対策等の推進について」(昭和62年10月6日消防危第95号消防特第122号)  http://kikenbutu.web.fc2.com/05TUTATU/01SHOUWA/1987S62/S621006KI95/00S621006KI95.htm
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(3)「電力は足りた。即時廃炉を」−−平智之衆院議員インタビュー(毎日新聞 2012年9月24日)

(前略)
−−原発反対は大学時代からだそうですね。

平 京都大学と留学先の米国UCLAの大学院で材料工学を学んでいました。私が研究していたのは高温度下での材料の強度です。例えば、鉄がどれくらいの温度でどのような力に耐えられるかというテーマです。
おそらくこの分野を研究した人で、原発が絶対に安全だと考える人はいないでしょう。具体的にいいますと、原発は、2700度まで熱くなる核燃料を1000度で溶ける鉄製の圧力容器で包んでいる装置なのです。ですから水で冷やせなくなると、核燃料が圧力容器を貫通して溶け落ちます。つまり、水が無くなったら必ずメルトダウンが起こるのです。(後略)

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2014/08/01

352 大飯原発差し止め訴訟-4

さて、いよいよ今回からは「大飯原発差し止め訴訟」の判決文要旨(1)の口語訳に挑戦してみることにいたします。いくら素晴らしい判決文であっても、読むのに抵抗があるために、多くの人の目に触れないというのでは、宝の持ち腐れです。

そこで私が素人の代表として、この判決文要旨を基にしながらも、換骨奪胎した口語訳を作ってみることにいたしました。内容や論理の順番はできるだけ原文に即したものにしたいと思いましたが、実際にはなかなかそういう訳にはいきませんでした。

幾つかの章に分かれて書かれているものをまとめたり、抽象的な言葉で語られていることを普通の人にも分かり易いものにするために、判決文では述べられていない具体例を挙げて加筆した部分もあります。特に、「5. 運転停止しても拡大する原発事故」では、具体的な事例や識者の発言を引用して大幅に加筆することになりました。その反対に、耐震性能など、具体的数字に言及した部分は省略して、論理の骨格が目立つようにした部分もあります。

そういう訳で、これは判決要旨の口語訳というよりは、判決要旨を基にした私の創作という位置づけでお読み頂いた方が良いものになりました。判決内容と矛盾したり、間違って書いた部分がある場合には、それは全て私に責任があり、私の理解が不十分であることから来るものです。
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1. 最高の価値としての人格権
私たちの命やからだや心を守り、毎日を安らかに暮らすことができる権利、これは人格権と言われるものであって、私たちの一番大事な権利です。法律の言葉で「人格権」と言うと難しく思うかもしれませんが、普通の言葉で言えば「人の命は何よりも尊い。安心して暮らせる毎日が一番大事」と言うことです。人格権は誰からも損なわれたり奪われたりしてはいけないものだということも、「人の命の尊さ」ということから自然に出てくる決まりです。その事は憲法(2)にもはっきりと書かれています(13条、25条)。

電気は勿論必要ですし、大事なものではありますが、だからといって私たちの命や体や心を守り、生活を安全に送ることを保証する人格権が損なわれて良いということにはなりません。原子力発電所を動かすことによって、多くの人の人格権が同時に損なわれる心配がある場合には、発電所を動かしてはいけないという判断をすることは、裁判所として当然のことでしょう。

2. 原発事故の影響と被害
原子力発電所で大事故があった場合、そこで出てくる放射能がどのくらい危険なものかということは、学者の間でも色々な意見があるようです。そういうわけで、事故のために危険な放射能が出た時に、原子力発電所の近くに住む人達がどこまで逃げれば良いかということも、はっきりと言う事はできません。

しかし、チェルノブイリ原子力発電所の事故から20年以上たった今でも、ウクライナ共和国、ベラルーシ共和国では広い範囲で人々が避難しています。これほど広い範囲で避難しなければならない位、放射能は危険だと考えられている現実があるわけです。それを考えると「放射能はそれほど危険なものではないし、放射能が出た場合も、それ程遠くに逃げる必要もない」という電力会社の言い分は、事故が起こった場合の事を真剣に考えず、ただ発電所を動かしたいという辻褄合わせのいい加減な言い分だと言えるでしょう。

3. 経済活動の自由か人格権の侵害か
発電という経済活動の自由は尊重されるべきものではありますが、それが私たちの人格権を損なう危険性がある場合には、その自由が制限されるのは当然のことと言えるでしょう。「命の尊さ」に基づくこの権利は誰からも損なわれたり奪われたりしてはいけないものなのですから。

原発事故は多くの人に長い期間にわたって大きな被害を与えます。自然災害や戦争以外で、このように大きな被害をもたらすものは原子力発電所の事故しか考えられません。このような被害をもたらす危険性が少しでもあるような経済活動というものは、そもそもあってはならないという考え方も可能です。しかし、そこまで言わないとしても、少なくとも私たちの最も大事な権利である人格権を奪う怖れが少しでもあるならば、裁判所が原子力発電所を動かさないという判断をするのは当然と言えるでしょう。

ましてや、原子力発電所は電気を生み出すための一つの手段にすぎません。火力、水力、風力、太陽光、地熱など様々な技術を利用して発電することも可能であることを忘れてはならないでしょう。

4. 技術の発展か甚大な被害防止か
裁判所が新しい技術の危険性を判断することはとても難しいことですが、私たちは福島原子力発電所の事故によって、原子力発電という技術の特別な危険性を身をもって知ることになりました。

日本の裁判所は福島原子力発電所の事故の後では、もうこの危険性を考えずに原子力発電所を動かすかどうかを決めることはできなくなりました。原子力発電所を動かすかどうか、それを判断する時には、福島原子力発電所で起こったような過酷事故の危険性がごく僅かでもあるかどうか、それをよく考えた上で結論を出さなければなりません。それを避けていては、裁判所の責任放棄と言われても仕方ないでしょう。

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(2)日本国憲法  http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%8c%9b%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S21KE000&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第二十五条  すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
○2  国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

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2014/07/31

351 大飯原発差し止め訴訟-3

昨日と同様、大飯原発運転差止請求の判決要旨(1)を抜粋し、タイトルを付け直したものをご紹介します。できれば、これを読んだ後に、判決要旨の原文も読んでみて下さい。

明日は「それでもやはり、法律の文章は読みにくい」という方のために、思い切って換骨奪胎した口語訳を試みるつもりです。
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5. 運転停止しても拡大する原発事故(4 原子力発電所の特性)
原子力発電技術は次のような特性を持つ。すなわち、原子力発電においてはそこで発出されるエネルギーは極めて膨大であるため、運転停止後においても電気と水で原子炉の冷却を継続しなければならず、その間に何時間か電源が失われるだけで事故につながり、いったん発生した事故は時の経過に従って拡大して行くという性質を持つ。このことは、他の技術の多くが運転の停止という単純な操作によって、その被害の拡大の要因の多くが除去されるのとは異なる原子力発電に内在する本質的な危険である。(中略)

6. 地震の発生の予知は不可能(5 冷却機能の維持にっいて)
原子力発電所は地震による緊急停止後の冷却機能について外部からの交流電流によって水を循環させるという基本的なシステムをとっている。1260ガルを超える地震によってこのシステムは崩壊し、非常用設備ないし予備的手段による補完もほぼ不可能となり、メルトダウンに結びつく。この規模の地震が起きた場合には打つべき有効な手段がほとんどないことは被告において自認しているところである。
 しかるに、我が国の地震学会においてこのような規模の地震の発生を一度も予知できていないことは公知の事実である。(中略)したがって、大飯原発には1260ガルを超える地震は来ないとの確実な科学的根拠に基づく想定は本来的に不可能である。(後略)

7. 使用済み核燃料の危険性 (6 閉じ込めるという構造について)
(前略)福島原発事故においては、4号機の使用済み核燃料プールに納められた使用済み核燃料が危機的状況に陥り、この危険性ゆえに前記の避難計画が検討された。原子力委員会委員長が想定した被害想定のうち、最も重大な被害を及ぼすと想定されたのは使用済み核燃料プールからの放射能汚染であり、他の号機の使用済み核燃料プールからの汚染も考えると、強制移転を求めるべき地域が170キロメートル以遠にも生じる可能性や、住民が移転を希望する場合にこれを認めるべき地域が東京都のほぼ全域や横浜市の一部を含む250キロメートル以遠にも発生する可能性があり、これらの範囲は自然に任せておくならば、数十年は続くとされた。(後略)

8. 人の命と発電コスト、国富の喪失とは何か(9 被告のその余の主張について)
他方、被告は本件原発の稼動が電力供給の安定性、コストの低減につながると主張するが、当裁判所は、極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的には許されないことであると考えている。このコストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。

9. 環境汚染と原発(9 被告のその余の主張について)
 また、被告は、原子力発電所の稼動がCO2排出削減に資するもので環境面で優れている旨主張するが、原子力発電所でひとたび深刻事故が起こった場合の環境汚染はすさまじいものであって、福島原発事故は我が国始まって以来最大の公害、環境汚染であることに照らすと、環境問題を原子力発電所の運転継続の根拠とすることは甚だしい筋違いである。

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(1)【速報】大飯原発運転差止請求事件判決要旨全文を掲載します
(2014年5月21日 NPJ訟廷日誌)  http://www.news-pj.net/diary/1001

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2014/07/30

350 大飯原発差し止め訴訟-2

今日から2回に渡って、大飯原発運転差止請求の判決要旨(1)で心に残った部分を抜粋し、内容に即したタイトルを付け直してご紹介します(文章そのものは、短くするために略した以外は変更していません)。判決要旨の元々の章タイトルは、私がつけたタイトルの後のカッコ内に入れておきました。「前略」、「中略」、「後略」は、各章の中で略した部分を示します。
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1. 最高の価値としての人格権(1 はじめに)
 ひとたび深刻な事故が起これば多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には、その被害の大きさ、程度に応じた安全性と高度の信頼性が求められて然るべきである。このことは、当然の社会的要請であるとともに、生存を基礎とする人格権が公法、私法を問わず、すべての法分野において、最高の価値を持つとされている以上、本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である。
 個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。したがって、この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求できることになる。人格権は各個人に由来するものであるが、その侵害形態が多数人の人格権を同時に侵害する性質を有するとき、その差止めの要請が強く働くのは理の当然である。

2. 原発事故の影響と被害(2 福島原発事故について)
(前略)年間何ミリシーベルト以上の放射線がどの程度の健康被害を及ぼすかについてはさまざまな見解があり、どの見解に立つかによってあるべき避難区域の広さも変わってくることになるが、既に20年以上にわたりこの問題に直面し続けてきたウクライナ共和国、ベラルーシ共和国は、今なお広範囲にわたって避難区域を定めている。(中略)両共和国が上記の対応をとらざるを得ないという事実は、放射性物質のもたらす健康被害について楽観的な見方をした上で避難区域は最小限のもので足りるとする見解の正当性に重大な疑問を投げかけるものである。(後略)

3. 経済活動の自由か人格権の侵害か(3 本件原発に求められるべき安全性)
(前略)原子力発電所の稼動は法的には電気を生み出すための一手段たる経済活動の自由(憲法22条1項)に属するものであって、憲法上は人格権の中核部分よりも劣位に置かれるべきものである。しかるところ、大きな自然災害や戦争以外で、この根源的な権利が極めて広汎に奪われるという事態を招く可能性があるのは原子力発電所の事故のほかは想定し難い。かような危険を抽象的にでもはらむ経済活動は、その存在自体が憲法上容認できないというのが極論にすぎるとしても、少なくともかような事態を招く具体的危険性が万が一でもあれば、その差止めが認められるのは当然である。(後略)

4. 技術の発展か甚大な被害防止か(3 本件原発に求められるべき安全性)
(前略)新しい技術が潜在的に有する危険性を許さないとすれば社会の発展はなくなるから、新しい技術の有する危険性の性質やもたらす被害の大きさが明確でない場合には、その技術の実施の差止めの可否を裁判所において判断することは困難を極める。しかし(中略)原子力発電技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさは、福島原発事故を通じて十分に明らかになったといえる。本件訴訟においては、本件原発において、かような事態を招く具体的危険性が万が一でもあるのかが判断の対象とされるべきであり、福島原発事故の後において、この判断を避けることは裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しいものと考えられる。(後略)

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(1)【速報】大飯原発運転差止請求事件判決要旨全文を掲載します
(2014年5月21日 NPJ訟廷日誌)  http://www.news-pj.net/diary/1001

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2014/07/29

349 大飯原発差し止め訴訟-1

「このところ、ブログ更新していないのね!」と久々に会った友達から言われました。全くその通りです。書きたいことがなかったわけではありません。むしろ知るべきこと、対応しなければならないことが、次から次と山のように押し寄せてくるために、かえって書くことができなくなっていたのです。

この2ヶ月間に起こった重大ニュースを、話題になった日付の順で列挙すると以下のようになります。

  • (a)5月19日 マンガ『美味しんぼ』で描かれた被曝と鼻血の関係
  • (b)5月21日 「大飯原発差し止め訴訟」で原告勝訴
  • (c)6月25日 不正選挙 選挙管理委員(高松市)を逮捕
  • (d)6月29日 集団的自衛権容認に抗議して焼身自殺
  • (e)7月01日 集団的自衛権の行使を容認する閣議決定
  • (f)7月08日 イスラエルのガザ攻撃開始
  • (g)7月13日 滋賀県知事選挙で三日月氏(元民主党衆院議員)が当選
  • (h)7月16日 川内原発、再稼動の事前審査に合格
  • (i)7月20日 中電、関電の裏金による政治献金システムが明らかに

一つ一つのニュースはテレビや新聞を通じて皆さんが既に知っているものでしょうから、それらをこのブログで紹介する必要はないでしょう。私たちに必要なのは、これらの出来事が私たちの生活や人生にどのように関係してくるものなのか、個々のニュースはどのように関連し、どのような全体像の中に位置付けられるものなのか、ということです。

これらの出来事に通底する大きな問題は原発と集団的自衛権の二つだと思いますが、その更に深い所では、日本における民主主義の危機、ないがしろにされる基本的人権、そのような世の中の流れを支える報道の腐敗という問題が浮かび上がってきます。

まず、原発関連の話(a、b、g、h、i)から始めましょう。この中で一番大きな出来事は「大飯原発差し止め訴訟」で原告が勝訴したことでしょう。この判決は、再稼動を認めないという結論それ自体の意義の大きさは言うまでもありませんが、判決文の内容、文章、共に素晴らしいものであり、全ての人々が読む価値があるものだと思います。

全文を読むのは大変ですし、私自身読んではいませんが、要旨のさわり部分だけでも是非、読んでいただきたいと思います。人の命、国の富、裁判所が担っている責任などについて書かれていて、読み終わった時には、「言いたかったことをよくぞ言ってくれた!」という感謝の気持で心が満たされました。私たちは脱原発のための強力な表現手段、原発を維持しようとする勢力に対する反論の武器を手にしたようなものでしょう。さわり部分だけでも手帳に書き留めて、いつでも取り出せるようにしておきたいと思いました。

とはいえ、私を含め、法律に疎い普通の人たちが、要旨だけでも読もうとすれば、抵抗を感じるのも事実ではないかと思います。その抵抗感に負けて、格調高い判決文に触れる機会を失うのはいかにも残念なので、一人でも多くの方にこの判決文を読んでもらう工夫を試みようと思います。

まず次回は、私が素人の代表として、判決要旨(1)の中で重要だと思った部分を抜粋し、内容に相応しいタイトルをつけて、書き出してみることにいたしますので、ご期待下さい。先日、形骸化されつつある憲法の行く末を案じて、その重要な部分を書き写し、壁に飾っていた書家の書展を見て感銘を受けましたが、この判決文もそれだけの値打ちがあると思います。
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(1)【速報】大飯原発運転差止請求事件判決要旨全文を掲載します (2014年5月21日 NPJ訟廷日誌)  http://www.news-pj.net/diary/1001

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2014/05/20

348 都知事選後に向けて-7

◆政治に関わらない脱原発とは何か?
前回、自然エネルギー推進会議での細川氏の表情の暗さについて書きましたが、実はその半月前の4月の中旬に細川氏が目眩で昏倒していたというニュースが入ってきました。やはり細川氏の精気の無さは私の個人的な思い過ごしではなかったということになります。なぜこれほどの体調不良を設立総会が終わってから表に出すことにしたのか、とても不思議に思いますが、何はともあれ無理をせず、十分な休養をとって健康を回復されることを願うばかりです。

体調を崩した細川氏の事はお気の毒に思いますが、だからといって「自然エネルギー推進会議」に象徴される細川・小泉両氏の脱原発への取り組みの問題点を不問に付して良いということにはなりません。もっとも、誤解のないように断っておきますが、私は「自然エネルギー推進会議」設立に関して、それを良いとか悪いとか言うつもりは全くありません。それは都知事選に細川氏が立候補したことに関して、良かったとか悪かったとか断じることができないのと同じです。

「それでは一体何を言いたいのか?再稼動も間近に迫り、日本が秘密保護法や集団的自衛権容認で民主主義国家から離れ、戦争への道へ突き進みつつある大変なこの時に...」といぶかしく思われるかもしれません。しかし、まさにそのような時だからこそ、思いを同じくする人達が力を結集する必要があると思ってこの記事を書いているのです。

◆言説の責任の取り方
山口県知事選、石川県知事選、鹿児島2区補選...。脱原発に関わる重要な選挙が続きました。脱原発ということで言えば、山口県は安倍首相のお膝元であり、上関原発の建設の是非で揺れている所です。川内原発のある鹿児島県は、細川氏に深い関係のある熊本県の隣県です。

ここでどのような候補者が県知事になるかということは、都知事選よりもはるかに直接的な影響がある選挙でしたが、細川・小泉両氏は「政治にも選挙にも関わらない」という言葉の通り、脱原発候補の応援に姿を見せることはありませんでした。

集会やデモに関しても同様でした。3.11から3年後の脱原発集会が3月9日と3月15日の2回に渡って開かれましたが、そのいずれの集会にも両元首相の姿は見られませんでした。

脱原発が最重要課題の為、同じく脱原発を掲げている宇都宮候補とは共闘できないと発言した人には、その後の行動に責任がある筈です。脱原発のデモにも集会にも来ず、脱原発を掲げる候補者の応援もしないなら、都知事選後、他にどの様な方法で脱原発を訴えるのでしょうか?

「その答えが自然エネルギー推進会議の設立です」と言うのであれば(1)、残念ながら「自然エネルギー推進会議」に脱原発の実効性のある活動を期待することはできないでしょう。細川氏は「自然エネルギー推進会議」の目的について以下のように言っています(2)。

「この会の目指すところは、まず第一に再稼働に反対をし、原発から自然エネルギーに転換することによって実感できる経済というものを作り上げていく、放射能の心配のない社会というものを作っていく、それがまず第一の目標であるということは、これはもう申すまでもございません。」

この言葉だけ聞けば期待に胸が膨らみますが、その一方で設立総会終了後の記者会見で「政治にも選挙にも関わらない」というこの活動の中身を聞けば、一旦膨らんだ期待は急速に萎んでしまいます。

細川・小泉両氏の脱原発への思いは本物かもしれません。被曝の影響は伝染病と同様、右であれ左であれ、その人の主義主張とは関わりなく降りかかってくる災いです。命を守るという視点に立てば、たとえ保守であったとしても、いずれ脱原発に向かわざるを得ない筈ですから(名護市長選挙と都知事選挙-14、15も参照 )。しかし、政治や選挙に関わらず、「自然エネルギーに取り組んでいる所の視察や激励」によって原発の再稼動を止めることができるのでしょうか?

「政治にも選挙にも関わらない」という細川・小泉両氏の発言に関して、生活の党・小沢一郎代表は次のように言っていますが、これが普通の人の判断だと思います(3)。

「(自然エネルギー推進会議の設立は)都知事選挙だけのことではなくて、今後も日本と国民のために脱原発をやっていこうということは、たいへん結構なことだと思います。まあスタートですから、政治には関係しないと言っているのは、当たり前っちゃあ当たり前なんですけども。政治でなければ変えられないんですから。ただ単に外野でワイワイ言ってたって意味無いんで。それが、選挙、国民の=主権者の選挙、投票を通じて政治を脱原発の方向へ持っていくということが、当然、最終的には必要だし。多分まあ、最終的にはそういうことを目指しているのではないでしょうか。」

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(1)2014/05/07 細川・小泉氏が脱原発を目指す「自然エネルギー推進会議」を設立(質疑応答に入ってからの2番目の質問者の発言部分の要約。終わりから37分前くらいの部分)
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/138530

質問者2(女性):
小泉・細川氏にお聞きします。まだまだ騙されている人達も沢山居ます。原発利権にまみれている政財界の人達が(脱原発の動きを)つぶしにかかると思いますが、それに対してどういう風にやっていこうと思っているのでしょうか?

司会者:[細川氏にも小泉氏にも発言を求めることなく、司会者が回答する]
なかなか難しい質問だと思いますが,その一つの答がこの場所ではないかと思うのです。

(2)細川護熙・小泉純一郎 自然エネルギー推進会議 2014年5月7日 文字起こし http://okos.biz/politics/koizumi-hosokawa20140507/

(3)衆議院議員 小沢一郎 生活の党代表 定例記者会見 2014年5月12日
http://4472752.at.webry.info/201405/article_12.html

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2014/05/12

347 都知事選後に向けて-6

ずいぶん長い間「原発報道あれこれ」をお休みしていました。この間に鹿児島2区補欠選(4月27日)では脱原発を掲げた二人の候補者(「新党ひとりひとり」の有川氏と共産党の三島氏)が負け、川内原発の再稼動推進の候補者である自民党の金子万寿夫氏が当選しました。投票率は5割に満たない45.99%で、小選挙区制となった1996年以降で過去最低でした。

応援していた有川候補の落選でいささか沈んでいたところに、細川・小泉元首相が原発ゼロを目指す一般社団法人「自然エネルギー推進会議」を立ち上げるというニュースが入ってきました。都知事選の後、どこにも姿を見せなかった二人がどのような脱原発に向けての活動を開始するのか、興味と期待を交えて設立総会の配信動画(1b)を見てみました。

◆自然エネルギー推進会議

自然エネルギー推進会議の設立総会は5月7日に行われました(1a)。この設立総会での模様は実際に動画(1b)で見ていただくのが一番ですが、その時、注目していただきたいのは、設立総会で聴衆を前にした細川・小泉両氏の発言と、総会が終わった後の記者団の前での発言の違いです※。

記者会見(動画の最後の10分位)は総会後に、別室で行われたようですが、そこでの発言では専ら自然エネルギーのことだけで、原発ゼロに関する具体的な取り組みや展望は全く語られませんでした。実際にはこれから何をしていくのか、と記者に聞かれた細川氏は「自然エネルギーに取り組んでいる所を視察したり、激励したりしていきたい」と答えるのみでした。「(脱原発が争点となる滋賀県や福島県の知事選挙で)脱原発を掲げる知事選候補者の応援はしないのか?」と聞かれても「応援しません。政治にも選挙にも関わりません」と硬い表情で何回も繰り返すばかりでした(記者会見で一番繰り返されたのはこの「選挙や政治には関わりません」という言葉でした)。これには耳を疑いました。

原発の即時廃止を掲げて、原発事故から都民の命、ひいては日本国民の命を守るというのが細川・小泉両氏の主張だった筈です。自然エネルギー推進は勿論大事ですが、脱原発で一番大事なのは今ある原発を稼働させないということです。自然エネルギー推進に力を入れようとしている最中に、再稼動した原発で事故が起こったら、もうおしまいです。

日本はもう半年も原発由来の電気は全く使わずに暮らしているのです。自然エネルギーで全ての電力をまかなうことはできない今、とりあえずは火力発電と節電とで原発を稼働させずに切り抜けるということが現実的なやり方だということが周知の事実となりました。

現時点での脱原発にとって一番の脅威は、原子力村の復活であり、必要もない原発の再稼動です(本当は益々悪化していく福島原発の汚染水漏れの問題もあるのですが、話が拡がり過ぎるので、ひとまず横に置いておきましょう)。細川・小泉両氏は、政治や選挙には関わらず、脱原発を望む国民運動を起こすことを目標にすると言っています。しかし、国民の7割は既に脱原発を望んでいるのです。それにも拘わらず、原子力村と政府がその国民の意思を無視して再稼動を進めようとしているのです。

去年の都知事選では宇都宮氏を応援したけれど、今年は細川氏を応援したという人々が少なからず居ると思います。その人達が細川氏に期待したのは、「保守から出た脱原発候補、現実の政治の中で原発を止めてくれる候補」だったのではないでしょうか?幾ら集会やデモで脱原発を叫んでも、政治の世界で力を持たないと駄目だということが身にしみて分かったからではないでしょうか?それなのに今になって「政治や選挙には関わらない」と言われるとは思いもよりませんでした。

自然エネルギー推進への取り組みが曖昧で漠然としている一方で、政治や選挙には関わらないという決心の固さにも驚かされましたが、私が一番驚かされたのは細川氏の精気の無さ、暗い表情でした。体調が今一つだと話していたので、それもあったのでしょうが、それにしても自ら望んで、使命感に燃えて自然エネルギー推進に取り組み、原発ゼロの日本を作り上げようとしている人の姿とは思えませんでした。

これは設立総会の模様や記者会見の答弁を書いた記事を読むだけでは絶対に分からないことでしょう。私の思い過ごしかもしれませんので、皆さんも是非、ご自分の目で記者会見の一問一答の様子、特に細川氏の表情を見ていただきたいと思います。

※IWJの配信動画(1b)はダイジェスト版で、完全版を見るには会員になるか、単品購入しないと見ることができない。

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(1a)細川・小泉元首相が脱原発法人=再稼働阻止狙う(2014.5.7 時事通信) http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140507-00000140-jij-pol

細川護熙、小泉純一郎両元首相らは7日夜、脱原発運動の核となる一般社団法人「自然エネルギー推進会議」の設立総会を東京都内で開いた。(中略)  代表理事に就任した細川氏はあいさつで、安倍政権が原発を「重要なベースロード電源」と位置付けた新エネルギー基本計画を閣議決定したことに関し、「事故に対する反省も教訓もなしに、再稼働の方針を打ち出したのはとんでもないことだ」と厳しく批判。海外輸出についても「道義を重んじるわが国の姿勢として容認できない」と強調した。  これに続き、小泉氏も「原発は安全ではないし、金食い虫だ。強引に(再稼働を)進めようとする気が知れない」と指摘。「(知事選の)敗北にくじけないところが細川氏と私のいいところだ。死ぬまで頑張らなければならない」と気勢を上げた。(中略) 7月の滋賀県知事選や今年秋の福島県知事選などへの対応について、細川氏は総会後、記者団に「直接的には関与しない」と表明。小泉氏も「選挙になると権力闘争も出てくる。原発ゼロの国民運動にしぼる」と語った。 -------------------------------------------
(1b)2014/05/07 細川・小泉氏が脱原発を目指す「自然エネルギー推進会議」を設立【動画と要約】  http://iwj.co.jp/wj/open/archives/138530

(前略)先般、政府は「原発を重要なベースロード電源とする」との文言を盛り込んだエネルギー基本計画を決定した。細川氏は、事故に対する反省も教訓もなしに原発再稼働を行おうとしていること、事実上破綻している核燃料サイクルをさらに推進しようとしていることを、「とんでもないと思う」と強く批判。さらに、途上国に原発を輸出しようとしていることについて、「平和国家としての我が国のあり方としてとても容認できるものではない」と批判した。    細川氏は、自然エネルギー推進会の目指すところは、「再稼働をやめ、原発から自然エネルギーに転換し、実感できる経済をつくりあげること、そして、放射能の心配のない社会をつくること」だと説明し、「かつて排ガス規制が自動車技術の開発と雇用の創出に貢献したように、自然エネルギーによって日本の活路を開いてくまたとないチャンスであることを認識しながら活動を進めていきたい」と述べた。(中略)  細川氏と小泉氏が都知事選に続いてタッグを組んだかたちとなったが、両氏とも、今後は選挙には関わらないことを強調した。  来年春の統一地方選挙などで反原発候補者を応援するのではないかと見る向きもあるが、細川氏は、「目標は原発をゼロにすること。それ以外に関わろうとは思っていない」と否定した。(後略)

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2014/04/16

346 都知事選後に向けて-5

◆2012年の山口県知事選挙の教訓
2012年の山口県知事選挙では、脱原発政策で一致する飯田哲也氏へ共産党が配慮して、独自候補をたてませんでした。私の中にも「反自民勢力の分断をする共産党」という先入観があったので、この事実には驚くと同時に、将来に一筋の光明を見た思いでした。このような流れが一つ一つの選挙で拡がっていけば良いのではないかと思ったのです。まず大事なことは候補者選びです。脱原発を望む有権者が積極的に一票を投じたいと望むような、力量のある候補者を擁立すれば、共産党も独自候補をたてるのをやめるかもしれませんし、仮に独自候補をたてても目くじら立てることもないでしょう。共産党支持者の大半が独自候補に入れる可能性は少なくなるでしょうから。

◆立候補の自由は誰にでもある
都知事選の一本化騒動の時には「またもや共産党が分断した」という批判の嵐が吹き荒れました。都知事選が終わった今、改めて当時のことを振り返ってみると、その非難の異様さ理不尽さには、「赤狩り」に等しい気味の悪さを感じます。

そもそも宇都宮氏は共産党員ではないのですから、共産党は独自候補を立てなかったと捉えることも出来るはずです(事実1年前の都知事選では脱原発派の統一候補だったのです)。しかし共産党が宇都宮氏支援を表明し、細川氏が立候補の意志を表した途端、「宇都宮さんは立候補を辞退すべきだ」という一本化騒動になりました。

脱原発のために一本化して力を結集するのは望ましいことではありますが、分からないのは「反自民勢力を分断した」と非難されるのが、なぜ共産党が支援する候補者にのみ向けられるのか、ということです(反自民の立場で都知事選に立候補した候補者は他にも複数居たにも拘わらず、その方々にこのような非難は向けられませんでした)。二人の候補者の政策が似通っているのなら、両者が一本化できるかどうかは、二人が話しあって決めるのが筋ではないでしょうか?

都知事選では宇都宮氏、細川氏、どちらからも一本化を断る回答が寄せられましたが、それに対して「一本化を断った」と非難の矛先が向けられるのはもっぱら宇都宮氏に対してでした。天木氏のブログ記事(1)はその典型です。

天木氏の言説は矛盾に満ちていて私の理解を越える内容です。それ以前のブログ記事では「無理をして脱原発一本化を図る必要はない(...)候補者を一本化できなければ細川候補が当選しないようでは、所詮安倍首相の原発推進を方向転換させることなど、最初から無理」とも書いています(「原発報道あれこれ-340」を参照)。つまり共産党抜きでやるという表明ですが、それならば共産党が独自候補を立てたと言って非難するのは筋違いではないでしょうか。

立候補の自由は誰にでもあり、どれほど非難しようとも、共産党が独自候補をたてることを止めることはできません。天木氏は更に山口県知事選で共産党が独自候補を擁立したことに対して「東京都知事選と同じ脱原発派の分裂だ」と非難しています。事実は前回の「原発報道あれこれ-345」の山口県知事選挙の状況で書いたように、脱原発派が積極的に一票を投じたい候補者が居ないという惨憺たる状況なのでした。

◆鹿児島2区補欠選
その意味で、鹿児島2区補欠選(4月27日)に向けて山本太郎議員の行動の斬新さには目を開かれる思いでした。候補者を公募し、面接した上で「新党ひとりひとり」の独自候補を擁立することにしたのです。もっとも今回は脱原発票が共産党の三島氏と新党ひとりひとりの有川氏とに分裂するという状況になっていて、脱原発統一候補という点から言えば、これはこれでまた問題含みではありますが。

ちなみに、都知事選で脱原発を最優先とした細川氏を支持した生活の党は、なぜか川内原発の再稼動に賛成する打越候補を支援しています。最近の生活の党は選挙に勝つ事に照準を合わせるあまり、一貫性を欠くことが多くなっていますが、今はこの問題が焦点ではないので、この問題はまた項を改めて書く事にいたしましょう。
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(1)天木直人「都知事選の後も尾を引く脱原発派の分裂ー絶望のなかの希望」
(YAHOOニュース 2014年2月7日)  http://blogos.com/article/79816/

東京都知事選における脱原発派の一本化がついに実現できなかった。
深刻なのは一本化を呼びかけた細川候補を応援する鎌田慧氏や河合弘之弁護士らに対する宇都宮陣営からの回答振りだ。

 言葉上は丁寧な文面になっているが、およそ話し合いに応じるつもりのない突き放したものだ。

 私は体験的に知っているが、このような一本化の試みは当初より難しかった。
しかし、これほどまでに安倍首相の強引な原発推進の政治がまかりとおっている時に、そしてその安倍暴走を食い止めるのは今をおいてないこの時に、まとまれないばかりか対立に終始したことは致命的であり、絶望的だ。

 私は、今度の都知事選で細川・小泉連合が負けたとしても、細川・小泉両首相は脱原発の国民運動を地方から起こす活動を止めないと思うと繰り返し書いてきた。

 2月末に予定されている山口県の知事選にも小泉元首相は脱原発候補の応援に駆けつけると言っていることが報じられている。(中略)

 ところがきょうの各紙が報じている。山口県知事選はきのう2月6日に告示され、自公の村岡元総務省官僚と、生活の党推薦の高邑という元民主党議員と共産党の藤井という候補者の3名の戦いとなると。

 東京都知事選と同じ脱原発派の分裂だ。

 ここでもまた共産党が独自候補を立て、安倍自民党政権と対峙するのは共産党だといわんばかりだ。(後略)
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(2)「川内原発再稼働」…前哨戦は低調 衆院鹿児島2区補選 [鹿児島県](西日本新聞 2014年04月12日) http://www.nishinippon.co.jp/nnp/kagoshima/article/81654

衆院鹿児島2区補選の告示が15日に迫った。国内の原発で再稼働一番乗りと目される九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)から最短で40キロの距離に選挙区はあるが、前哨戦で再稼働をめぐる論戦は深まっていない。賛成派は「支持者の賛否が分かれている」と争点化を避け、反対派も割れて批判合戦に陥っている。(中略)

県内の再稼働反対派は、2012年の知事選では共産党も加わって市民団体出身の統一候補を支援。再稼働容認の現職に敗れたが、得票率3割超の20万票を集め存在感を示した。

 しかし今回は、共産党新人の三島照氏(72)と、全国で脱原発運動を進める山本太郎参院議員が擁立した諸派新人の有川美子氏(42)に支持が割れている。(後略)

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2014/04/12

345 都知事選後に向けて-4

◆象徴的な原発立地自治体での選挙
都知事選から2ヶ月経過しました。その間に原発立地(予定地)自治体である山口県知事選挙(2月23日)、石川県知事選(3月16日)があり、いずれも脱原発を掲げている候補が落選しました。

山口県知事選では、以下の通り自民、公明、連合が支持する村岡氏が圧勝しました。山口県知事選挙は原発立地自治体の状況をよく表していて、ある意味、象徴的な選挙だったのではないかと思いますので、少し細かい話ですが調べたことを書いてみます。

2014年山口県知事選挙結果(投票率 38.82%)

  • 村岡嗣政(原発には言及せず) 286,996票(得票率 63.9%)
  • 高邑勉(脱原発) 115,763票(得票率 25.8%)
  • 藤井直子(脱原発) 46,402票(得票率 10.3%)

4割に満たない投票率が低いと嘆く人も居ますし、「またしても共産党が脱原発票を割った」と非難する人も居ます。しかし、現地の生の声(1)や、チダイさんのブログ記事(2)を見れば、こういう非難は的外れであることや、こういう結果になることは無理もないことが分かります。もし私が山口県民だったなら誰に投票すべきかとても悩んだでしょう。それに嘆いたり非難していても何も改善されません。このような結果を招く状況を何とかしなければならないと思うのです。

まず、福島の事故の後でさえも原発の新設や再稼動を願う原発立地自治体の現状があります。この問題に関しては、IWJブログに「原発建設計画で真っ二つに引き裂かれた、上関町の今」という優れた記事が載っていますので(3)、そちらをご覧下さい。貧富の格差、地方の貧困を抜きにして、ただ単に脱原発を唱えるだけでは解決のつかない多くの問題が背景にあることに思い至るはずです。

脱原発を掲げて立候補したのは2人です。生活の党が推薦する高邑勉氏は1年半前(2012.7.29)の県知事選にも立候補しています。その時は「(上関原発新設は)凍結」という曖昧な政策でしたが、今回は反対を表明しています。しかし高邑氏は原発推進の田母神氏を支持していて、その矛盾に疑問を持ったちだいさんが、「本当に脱原発なのか?」と聞いてみたところ、「全国の原発は推進だけど、上関原発には反対なんです」と答えたそうです。それには私も開いた口がふさがりませんでした(2a)。その他、瓦礫広域処理賛成、オスプレイ受入、岩国基地強化の政策を掲げていて(1)、私が山口県民だったら積極的に一票を投じる気持にはなれなかったでしょう。

もう一人の脱原発候補である藤井直子氏は共産党推薦で、ポスターを見れば「原発ゼロ、基地ノー」と書いてあるので、脱原発であることは明確です。しかし、ちだいさんの記事にある通り「やる気を疑う」という言葉に尽きる候補者です。私もインターネットで検索してみましたが、立候補にあたってのホームページも開設されていず、個人ブログの中で日記風に立候補の記事が書かれているだけでした。

これでは投票率が低いのも当然です。脱原発を願う県民が積極的に一票を入れたいと思う候補者が居ないのですから。「またしても共産党が脱原発票を割った」と非難するのも的外れです。藤井氏のやる気のなさには困ったものですが、もし共産党から誰も立候補しなかったら、選択肢は「(上関の原発だけに反対し)全国の原発は推進」という高村氏か、原発に関しては何も言及しない自民推薦の村岡氏か、または棄権の3択しかないのです。

ちなみに1年半前の状況はどうだったかというと以下の通りです。

2012年山口県知事選挙結果※(投票率 45.32%)

  • 山本繁太郎  252,461票(得票率 47.57%)
  • 飯田哲也 185,654票(得票率 34.98%)
  • 高邑勉 55,418票(得票率 10.44%)
  • 三輪茂之 37,150票(得票率  7.00%)  (※数値は「ウィキペディア」を参照)

今回と前回の違いは、まず前回の投票率が高いということです。2位の飯田哲也氏が1位の山本繁太郎氏の投票数に接近していることも目立った点です。自民、公明が支援した山本繁太郎氏が立候補を決めたのは公示の4ヶ月前。飯田哲也氏が1ヶ月前ということを考え合わせると、この選挙の内実は接戦だったと言えるでしょう。このような選挙結果になった一つの原因は、共産党が脱原発などの主要政策で一致する飯田哲也氏への配慮として、実に1960年以来、52年ぶりに知事選で対立候補を擁立しなかったということも影響しているでしょう。
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(1)座間宮ガレイ「ひっくり返す100万人無料メルマガ〜山口県知事選に対する苦悩の声 読者からのナマの声」 http://senkyo.blog.jp/archives/3157608.html

東京都知事選挙の細川護煕氏の出馬での盛り上がりと全く異なり、熱気のようなものを自分にも周囲にも全く感じない。山口県には上関原発計画が未だに存在し、東京と同様に争点になるはずなのに。保守王国と呼ばれる山口県で、本当に失礼だとは思うが、共産党候補が勝つことはまずない。東京のように保守勢力だった人の中から脱原発を唱える人が出ないかぎり勝ち目はないのだ。

そう思っていた矢先の一報が、高邑勉氏の出馬だった。「凍結」という曖昧でどちらにも取れる主張をした前回2012年の知事選から主張を変えた理由は、飯田哲也氏と一本化に向けて政策を調整する中で、飯田氏の考えに影響を受けたということらしい。(中略)そこで今回、「原発は新設しない」という高邑氏に一票を投じるかと問われると、どこか胸につかえたものが残る。オスプレイ受け入れから始まり、防衛庁機能の一部を山口県に移転し、国防拠点とするという公約、東日本の震災の瓦礫の積極的受け入れの表明には目眩がする思いだった。若いのに考えが古すぎる。(中略)30年も原発計画に反対してきた人も「高邑はニセモノだ」という。(中略)村岡氏は無所属で立候補し、自民の推薦を受ける。(中略)上関原発建設計画の是非は『エネルギー政策は国策で、国の責任で位置付けを明確にしてほしい』と。

要するに、何にも変わらないということだ。これが山口県の保守王国と呼ばれる所以であろう。

本当の意味での保守、愛郷、国土を守ろうとする候補はいないものか。本当にみんなの意見で選ばれた知事の「上関原発白紙撤回」の朗報を聴きたい。

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(2a)チダイズム 山口県知事選2014 高邑勉候補。 http://ameblo.jp/c-dai/entry-11775519029.html
(2b)チダイズム 山口県知事選2014 藤井直子候補。  http://ameblo.jp/c-dai/entry-11775519564.html
(2c)チダイズム 山口県知事選2014 村岡嗣政候補。  http://ameblo.jp/c-dai/entry-11775520500.html

ちだい:1日10万アクセス(月間約300万PV)を誇る人気ブログ『チダイズム~毎日誰かを笑わせるブログ~』の管理人。本職はテレビ・ラジオ番組を手掛ける放送作家だったが、福島第一原発事故後の報道に疑問を抱き、独自に取材した情報や、食品に含まれる放射性物質の検査結果をブログで公開。2013年12月末に出版された初めての単行本『食べる?』はベストセラーになった。
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(3)【IWJブログ】原発建設計画で真っ二つに引き裂かれた、上関町の今~「推進」と「反対」、32年目の逡巡(前編、後編) http://iwj.co.jp/wj/open/archives/132397

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2014/03/06

344 都知事選後に向けて-3

◆宇都宮氏と共産党
前回は細川氏と新自由主義の関係から、たとえ細川氏が善人であるとしても、やはり支配者の側に居る人だということを書いてきました。今度は当然、宇都宮氏と共産党の関係を書くべきでしょう。共産党の問題点に関しては一本化問題との関連で「原発報道あれこれ-337、338」でも書きましたが、今回は宇都宮氏自身と共産党との距離を中心にして見てみましょう。

ツイッター上では、宇都宮氏は共産党員だという記事が選挙前も選挙後も行き交いました。これを見た時、私は「ふうん...共産党員の中にも、これだけ柔軟な考え方ができる人が居るのか!見直した!」と感嘆しました。後に、共産党員でないことが分かって、ちょっとがっかりしましたが...。

ネガティブ・キャンペーンとしての、宇都宮氏=共産党という言説は、半年前の参院選での山本太郎氏=中核派というそれを思い起こさせますが、どちらも全く同じレベルで根拠なしというわけではありません。山本太郎氏の場合、中核派が一方的に勝手に応援しただけですが、宇都宮氏の場合には互いに了承しあった上での繋がりがあります。街宣車には共産党の吉良よしこ議員が乗って司会をしていましたし、街宣車の横には日本共産党の旗がはためいていました。共産党に対しては普通の人並みの不信感と警戒心を持っていた私は、「宇都宮氏は党員ではないとしても、実際のところ互いの距離はどうなのだろう?」と気に掛けて見ていました。

最初の関門は、共産党の志位氏が、細川氏の20年前の東京佐川急便からの1億円借り入れ問題について「都知事を目指す以上は説明責任が問われる」と指摘した時でした。他にも革新系の候補者が立った選挙の時に繰り返される、共産党のこのような「仲間潰し」には、私も眉をひそめざるを得ません。「疑いのある借入金について追求するならば、まずは桝添氏の2億5千万円の方でしょう...!」と思いました。

幸い、宇都宮氏は志位氏に同調しなかったので、私の心配した事態にはならなかったのですが、宇都宮氏が人々から信頼されるには、こういう共産党のやり方とは距離をおく方が良いと思った次第です。

◆子宮頸癌ワクチン問題
宇都宮氏と共産党との密着度がどの程度のものか、ずっと気になっていた私の疑念が晴れたのは、あるツイッターを読んでからでした。東京新聞「こちら特報部」記者の佐藤圭氏が宇都宮氏は「共産党とも、線を引くべき所は引いている」と書いていたのです(1)。

子宮頸癌ワクチンの問題については、私もIWJが何回かその危険性と行政の取り組みの不自然さについて取り上げていることは知っていましたが(2)、あまり気に留めることもなく過ぎていました。共産党がワクチン接種を推進していたということはこのツイッター記事を読んで始めて知ったのです。

子宮頸癌ワクチン問題が、単なるワクチンの副作用問題を越えて被害が拡大する背景には、製薬企業が医療業界、政府を支配している構図があること、ワクチンの導入に外資の製薬会社の利権が大きく絡んでいて、TPPの前哨戦と考えるられることなど、複雑な問題があるようですが、今はこの問題が焦点ではないので、この程度の紹介にしておきます。

IWJでは「東京都知事選2014」という特集記事を組み、その中の一つのテーマとしてこの子宮頸癌ワクチン問題をとりあげています(2)。私はその記事と動画を見て、東京新聞の佐藤記者が書いていた「共産党とも、線を引くべき所は引いている」ことを確認しました。

子宮頸がんワクチンに関して、宇都宮氏は独自に判断し、共産党の(以前の)ワクチン推進姿勢とは異なった結論を出していました。主要4候補のうち唯一、子宮頸癌ワクチンの実態調査とともに予防原則に基づいて対策を講ずる、と政策で発表していましたし、公開質問状には、「子宮頸ガンワクチンの接種事業は一時中止すべきである」と回答していました。

宇都宮氏がこのワクチンの副反応被害を初めて知った時の動画(3)では、多重債務に苦しむ人達を守るために、暴力団と渡り合った宇都宮氏の横側を垣間見ることができました。ワクチンの副反応の痙攣で苦しむ少女たちの動画を見る宇都宮氏の顔には、驚きと怒りと共に、「何とかできないものか?」という思いが浮かんでいるようでした。

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(1)佐藤 圭 ‏@tokyo_satokei   https://twitter.com/tokyo_satokei/status/427268142436335616
宇都宮候補と共産党との関係を考える上で、副作用が報告されている子宮頸がんワクチンの問題に注目していました。共産党はワクチン推進派だからです。宇都宮候補は政策集で「副作用の実態を調査し、予防原則に基づいて対策を講じる」と明記しました。共産党とも、線を引くべき所は引いている。

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(2)【IWJブログ・特別寄稿】都知事選の隠れた争点~子宮頸がんワクチンの罠(全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会代表・松藤美香)  http://iwj.co.jp/wj/open/archives/124184

(前略)IWJは松藤氏に、今回の都知事選において各候補者へどのような印象を持たれているのか、とりわけ、主要4候補について、尋ねてみた。以下、IWJが各候補へ取材した内容とともに紹介する。(中略)「子宮頸がんワクチンに反対する親父の会」は1月27日、各候補に子宮頸がんワクチンに関する公開質問状を送付。2月2日を期限として回答を求めた。

松藤氏「宇都宮さんは、このワクチンの危険を知り、中止すべきと発言していますが、その言葉が強靭ではないのと、どこか法律に則ってという感覚がありますね。弁護士なので、そのような発言になるのかもしれませんが、彼をバックアップする政党の一つが日本共産党で、子宮頸がんワクチンの接種無償化を強く推進してきた党の一つだということが引っかかっています」

宇都宮氏は主要4候補のうち、唯一政策で子宮頸がんワクチンの副反応の現状を踏まえて、「実態調査」とともに「予防原則に基づいて対策を講ずる」と発表。公開質問状には、宇都宮氏自身と「希望のまち東京をつくる会」の連名で、「子宮頸ガンワクチンの接種事業は一時中止すべきである」と回答している。(中略)

松藤氏が懸念する、日本共産党の子宮頸がんワクチンに対する姿勢について、同党の女性委員会は1月21日、IWJの取材に次のようにコメントした。(中略)子宮頸がんワクチンを「推進」とも「反対」ともとりにくい、不明瞭な回答ではあるが、同ワクチンの接種無償化を求めてきた時期とは異なり、副反応被害が相次いでいる今、積極的に子宮頸がんワクチンを推奨するスタンスは取らないようだ。(後略)

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(3)2014/01/09 被害当事者からの声とIWJ記者による報告~ロックの会 IWJ NIGHT 第4部「子宮頸がんワクチン副反応被害」 ※ http://iwj.co.jp/wj/open/archives/119350

※この動画は部分的には公開されていますが、会員にならないと全部見る事はできません。良質な記事と動画を配信しているIWJの会員になって、その活動を支えて下さい(月額千円、年額1万円)。

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2014/03/05

343 都知事選後に向けて-2

◆細川氏と新自由主義
細川氏のタウンミーティングでは、格差社会と進む貧困問題に関して触れることはありませんでしたが、これはたとえ無意識であれ、細川氏が支配者の側に立つ人であることを如実に物語っていると思います。何も問題のない平和な時代なら「良い殿様」になりえたかもしれませんが、独裁体制に進む安倍政権に対して「共に闘ってくれる仲間」ではないという事が、直感的に見抜ける話の内容だと思いました。

象徴的なのは、立候補のホームページ上に国家戦略特区を推進するという政策を掲げていたことです。特区に関しては、選挙戦後半になって「やはり小泉元首相と同じ新自由主義だ」との批判があったためか、「昨年成立した、解雇規制の緩和、いわゆる「解雇特区」については、慎重に検討するべきです」と加筆し、ツイッターでも発信しています(1)。

これに関しては「これで安心した。やはり細川さんは信用できる」という細川氏支持者の意見がある一方で、若者の労働問題、特にブラック企業対策の専門家から細川氏の認識の甘さを指摘するツイッター記事が出されました(2a, 2b)。まず、「昨年成立した」とされている「解雇特区」は成立していないこと、次に一旦、国家戦略特区が設定されれば、その内容は国が関与して決定されるので、都が特区を設定した時点で、解雇特区にも同時に道を開くことになるという内容です。この点は私も理解していませんでしたが、細川氏が特区について十分理解しないまま政策に掲げたこと、批判が出れば十分理解しないまま、小手先の修正をしようとしたことが見えてきます。

細川氏の話を聞く限りでは、細川氏は国民を奴隷化し、日本を独裁国家にしようとする新自由主義を積極的に進める人とは思えません。しかし国家戦略特区についての理解が不十分であるが故に、(誰が勧めたのかは分かりませんが)公式の政策に掲げ(3)、批判があがれば理解が不十分なまま、一部修正するというような状態では、とても安倍政権に立ち向かうことはできないと思いました。

実は国家戦略特区の内容は国が決め、知事はそれを受け入れるかどうかを決めるだけという事のようですが、それは逆に言えば知事には拒否権があるということです。したがって理屈の上では、国民にとって危険な特区の内容である場合には、知事が拒否することも可能なわけです。しかし特区を巡る細川氏の一連の行動を見ていると、このような修羅場をかいくぐって国民を守っていくには、そのための知力も気力も信念も欠けていると思いました。それができる位なら、公開討論会を16回もキャンセルしたり、討論会の場ではクロストーク(候補者同士の議論の応酬)には応じない、などの逃げ腰の対応はしなかったでしょう。

都知事選では、細川氏の立候補によって、あたかも原発だけが緊急性のある最重要課題であるかのように喧伝され、多くの人がその他の課題に目を向けなくなりました。確かに支配者の側に居る人にとっては嘘偽りなく最重要課題かもしれませんが、一般国民である私たちが立ち向かわなければいけないのは脱原発の問題だけではありません。安倍政権のもとで急速に進むファシズムや格差社会と貧困などの課題も、原発と同じくらい喫緊の課題です。そして、脱原発問題とは違って、この問題に関しては自民党の内部から行き過ぎを押しとどめる勢力が出てくることは期待薄です。

「脱原発のシングル・イシュー」とは、これらの諸問題を争点化しないための巧妙な仕掛けだったという可能性もあります。あるいは「猪瀬元知事の徳州会問題を引き続き追求する」と言明した宇都宮氏が知事になることは何としてでも阻止する必要があったのかもしれません。あるいはただ単純に、支配者でも国民でも等しく降りかかってくる原発の災いを止めたかったのかもしれません。

本当のところはどうだったのかということは今のところ不明ですが、今後の脱原発に向けての両元首相の行動がその答を出してくれるでしょう。山口県知事選挙の後は、石川県知事選(3月)、滋賀県知事選(7月)、福島県知事選(11月)と続きます。2年後の参院選まで、原発を巡る重要な選挙が続きます。

決して都知事選が「最後のチャンス、負けたらそれで終わり」というものではなく、これからも脱原発も含め、反【秘密保護法、軍事国家化】の市民運動は続けていかなければなりません。分裂せずに共闘していくにはどうしたら良いか、細川支持者、宇都宮支持者がお互いの候補者に一本化するに際して、何が壁となっていたのかということを考える必要があるでしょう。これは互いの潰しあいではなく、共に手を結びあっていくために必要な、互いに忍耐を伴って越えていかなければならない作業なのです。

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(1) 細川護熙 ‏@morihirotokyo 2月7日  https://twitter.com/morihirotokyo/status/431451665019854848
(政策に以下を補足追記) 国家戦略特区については、雇用を守る方向での活用を考えています。昨年成立した、解雇規制の緩和、いわゆる「解雇特区」については、慎重に検討するべきです。(2/6追記) http://tokyo-tonosama.com/(※このURLのホームページは既に閉鎖されていて見ることはできない)
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(2a)今野晴貴※ ‏@konno_haruki 2月7日  https://twitter.com/konno_haruki/status/431682025775300609
成立してもいない「解雇特区」について、「成立した」と勘違している細川氏が、「慎重に検討する」という。意味不明である。そもそも、都が「国家戦略特区」を設定することで、はじめて「解雇特区」に道が開かれるのである。その程度のことも理解していないようでは、雇用軽視は明らかだろう。
※若者の労働問題を解決することを目指して設立されたNPO法人「POSSE」代表理事。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。

(2b)今野晴貴 ‏@konno_haruki 2月7日  https://twitter.com/konno_haruki/status/431683097185120256
細川氏がいうように、都が「解雇特区については慎重に検討」しても、国家戦略特区を設定すれば、その内容は国が関与して決定される。だから、都が特区を設定した時点で、解雇特区にも同時に道を開くことになる。それゆえ、特区そのものに慎重になるべきなのだ。この事実すら認識していないようだ。
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(3)細川護煕:政策 http://tokyo-tonosama.com/ 
「都市基盤の整備をすすめ、美しく機能的な首都へ」

東京の発展を支える産業基盤の育成をはかるため、「国家戦略特区」も活用し、魅力的なビジネス拠点の形成に努めることで、グローバルな都市間競争に勝ち抜けるようにしていきます。(中略)

民間活力を生かした都市インフラ整備を推進します。「国家戦略特区」を活用し、羽田空港の国際化、都心拠点の拡充、先端的な医療環境や教育環境の整備に努め、住みやすさとビジネス機能性を両立させた都市作りを進めます。

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2014/03/03

342 都知事選後に向けて-1

★3.11から3年 集会とデモ

まず、脱原発の集会とデモについてのお知らせです。福島原発事故から3年。3.11前後には各地で脱原発集会などの催しがあります (http://coalitionagainstnukes.jp/?p=3932) 。東京での大きな集会は (A)と(B)の二つがありますが、私は3つのグループが集まる (A1)に参加しようと思います。(A1)との関係は良く分かりませんが、午前中は三宅洋平さんなどのライブ(A2)も同じ日比谷公園で行われるので楽しみです。

(A1)原発ゼロ☆大統一行動 (http://coalitionagainstnukes.jp/?p=3996

  • 日時:2014年3月9日(日曜) 13時(集会)、14時(デモ出発)、15時(国会前大集会)
  • 会場:日比谷野外音楽堂(地下鉄:日比谷駅/霞ヶ関駅/内幸町駅)
  • 主催:首都圏反原発連合/さようなら原発1000万人アクション/原発をなくす全国連絡会

(A2)脱原発コラボレーションイベント(http://www.peaceonearth.jp/

  • 日時:2014年3月9日(日曜) 11時〜18時
  • 会場:日比谷公園 ソーラーステージ、野外小音楽堂
  • 出演:cro-magnon/BRAHMAN/NAMBA69/三宅洋平/SUGIZO/佐藤タイジ& A 100% SOLARS/加藤登紀子/坂本龍一/吉原毅/飯田哲也

(B)フクシマを忘れない!さようなら原発3.15脱原発集会 (http://sayonara-nukes.org/2014/01/nonukesweek2004_03/

  • 日時:2014年3月15日(土曜) 13時(集会)、14時半(デモ出発)
  • 会場:日比谷野外音楽堂(地下鉄:日比谷駅/霞ヶ関駅/内幸町駅)
  • 主催:さようなら原発1000万人アクション

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◆運命共同体か相反関係か
さて、前回までの記事で、私は「脱原発に関してだけ言えば、反自民の統一候補をたてずに進むということもあり得る」と書きました。しかしだからといって、これからの市民運動や選挙において、共産党を除外することを大前提として進むことを良しとしている訳ではありません。むしろその逆で、秘密保護法、解釈改憲によって進む軍事国家化、進む格差社会と貧困などの課題に対して抵抗していくためには、どうしても共産党も入れた形で共闘していかなければならないと思っています。

原発事故と被曝に関しては、右も左もなく、支配者にも一般国民にも公平に降りかかってくる災いである故に、同じ船に乗った運命共同体として、双方の利害関係は一致しています。このような問題に関しては、共産党を除外してもしなくても、しかるべき方向にいずれ進んでいくでしょう。しかし秘密保護法、解釈改憲など、安倍政権のもとで急速に進むファシズムや格差社会と貧困に関しては、支配者と一般国民の利害関係は全く異なってきます。

例えば秘密保護法を例に取ってみた場合、この法律は支配者にとっては国民を支配するのに好都合である一方、一般国民にとっては自由を失う奴隷化への道であり、何一つ良い事はありません(それなのになぜ、ファシズムが一般国民の合意のもとに進行しているのか、これは重要な問題なので、項を改めて書く予定です)。双方の関係は運命共同体どころか、利益が相反する関係にあるわけです。

この視点から見れば、支配者の側に立つ人が原発の新設や再稼動には反対しながらも、秘密保護法に対しては賛成、あるいは反対しないということに何の矛盾もありません(たとえば河野太郎議員が良い例です)。小泉元首相の脱原発宣言は本気だと考えても良いでしょうが、しかしその他の問題に関しても一般国民の味方かどうかは、原発問題とは別に一つ一つ見極めていかなければいけません。

これらの事を考えた時、細川、小泉元首相連合が脱原発をシングル・イシューとしたことは、彼等の立ち位置を実に正直に表していたと言えるでしょう。今は現役を退いているとはいえ、彼等は一般国民ではなく、支配者の利益を代表する立場にあります。支配者と一般国民との共通の課題である脱原発、それ一点に絞って彼等は都民の支持を求めたのです。

細川氏のタウンミーティングの動画(1)を見ましたが、脱原発に関しては雄弁に語る一方で「秘密保護法、カジノ、ダンス規制、(福島県産の食品の)食べて応援、対米関係、中国や韓国との関係悪化に関しては、質問されれば「好ましくない」という意見を表明しただけでした。それらは「好き嫌い」のレベルで表明したものであって、積極的な政策として掲げたものではありませんでしたが、タウンミーティングの出席者には概ね好意的に受け止められていたようです。
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(1)2/7日(金) 21:00〜 モーリー・ロバートソン、細川もりひろ参加、タウンミーティング  http://blog.livedoor.jp/ryoma307/archives/7536605.html

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2014/02/23

341 名護市長選挙と都知事選挙-15

◆命を守るのに右も左もない

泉田新潟県知事は柏崎刈羽原発の再稼動に対して抵抗していることで有名ですが、元々は経産省の官僚出身で、新潟県知事選では自民党と公明党の支持で当選した経歴の持ち主です。泉田知事が再稼動を認めないのは、「知事の役割の最も重要な仕事は住民の命を守ることと財産を守ること」という単純な理由によるものであり、決して反原発とか脱原発とかいうことを政策に掲げているわけではありません(1)。

泉田知事の「住民の命と財産を守る」という方針が一貫していて信用のおけるものであることは他の幾つかのケースでも確認することができます。新潟県柏崎市と三条市での震災瓦礫焼却に対しては「未来に対して責任を持てるのか」と厳しく批判しました(2a)。最近の事で言えば、2月14日から3日間続いた大雪のため、山梨県、埼玉県の雪に閉じ込められて孤立した地域に大型除雪車チームを派遣し、大変な評判になりました(2b)。

脱原発の政策を掲げていながら震災瓦礫焼却を進めようとした共産党のことを考えると(3)、「命を守るのに右も左もない」ということを痛感させられますし、更に、人や政党が信用できるかどうかは、言っていることだけでなく、実際にやっていることも見ないとだめだということが分かります。

細川氏の勝手連は「保守から脱原発を掲げる候補者が出ることになった今回の選挙、これは脱原発のため最後のチャンス」という理由で宇都宮氏に辞退を迫ったのですが、この判断の前提は何ら根拠がないものであり、それを無批判に信じて行動した知識人、文化人の思考の浅さに愕然とします。

繰り返しますが脱原発に関してはたとえ保守であったとしても、命を守るという視点に立てば、いずれ辿らざるを得ない道だと思います。「都知事選が最後のチャンス」であるどころか、2月23日に投開票が行われる山口県知事選、その後は石川県知事選(3月)、滋賀県知事選(7月)、福島県知事選(11月)と続きます。原発立地自治体であるこれらの県知事選の行方がどうなるかは、都知事選の結果の比ではありません。出身母体が保守であっても、経産省官僚であったとしても、新潟県民の命と財産を守ってくれる泉田知事のような政治家が出てきてくれるならば、確実に脱原発への道を進んでいくことができるでしょう。

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(1)泉田新潟県知事「原発再稼動に反対する 理由(マル激トーク・オン・ディマンド 第649回 2013年09月21日)  http://www.youtube.com/watch?v=4kjJ_E3wu_A
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(2a)知事、怒り爆発「殺人に近い」…震災がれき焼却(読売新聞 2013年2月15日)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130214-OYT1T01391.htm

新潟県柏崎市と三条市で始まった震災がれきの本格焼却について、泉田裕彦知事は14日の記者会見で、「亡くなる方が出れば傷害致死と言いたいが(放射能の危険性を)分かっていて(埋却を)やったら殺人に近い」と述べ、両市の対応を改めて厳しく批判した。
12日にも両市の対応を「犯罪行為」とやゆした知事。この日の記者会見では、「未来に対して責任を持てるのか」と怒りを爆発させた。(後略)
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(2b)【大雪災害】「白い恐怖」に背を向けた、首相官邸の主・安倍総理の優雅なるウィークエンド  http://iwj.co.jp/wj/member/archives/18190

(前略)
■山梨県への除雪車派遣で迅速対応した新潟県・泉田裕彦知事
 16日、雪害に慣れている県職員を、被害甚大な山梨県へ派遣することを自身のTwitterで発表。17日に第一陣として、大型除雪車10台5チームを派遣し、18日朝から山梨県内の孤立地区へ通じる道路で作業を始めた。

 新潟県が豪雪災害で他県に職員を派遣したのは初めてで、本来、県の財政制度等では想定されていないにも関わらず、緊急性を重視した英断といえる。また18日にはさらに埼玉県からの派遣要請を受け、職員と機材の派遣を発表した。(後略)
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(3)がれき処理 復興の大前提
広域処理 安全性確保に万全(しんぶん赤旗 2012年5月24日)  http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-05-24/2012052401_04_1.html

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2014/02/20

340 名護市長選挙と都知事選挙-14

◆一本化のやり方の論議から

都知事選が終わった今こそ、統一候補を出す際のプロセスをきちんと論議し、合意形成を始める必要があると思います。合意形成をするのはどのような人達が中心になったら良いのでしょうか?本来ならば、細川勝手連と宇都宮選対とが中心になるべきなのでしょうが、おそらくそれは無理でしょう。選挙後に出された鎌田代表の記事は、「勝てる選挙だったのに、細川陣営が出遅れた。宇都宮候補が辞退しなかったために票が割れた」という無念さと恨みが述べられているだけでしたから(1)。

これでは話し合いも何も始まりません。やはり革新共闘会議の中心となるべきメンバーは、今後に向けて統一候補を出そうとういう積極的な展望を持つ若い方々が中心になる方が良いのでしょう。

◆脱原発:統一候補をたてないという選択
会議でまず確認すべきことは、今回の一本化騒動で一番話題になった点、すなわち共産、社民を含んだ形での統一候補を出すかどうかでしょう。外交評論家の天木直人氏は「候補者を一本化できなければ(...)宇都宮候補の票を頼らなければ舛添候補を破れないようでは、細川・小泉連合はそもそも敗北」と書いています(2)。

これはこれで一つの方針ですが、そうであるならば今後、共産党が「票を割る」独自候補を立てても非難するのは筋違いです。立候補の自由は誰にでもあり、それを非難することはできませんし、第一それによって共産党抜きの反自民候補が勝つ事に何の寄与もしないでしょう。「内輪もめ」のマイナスイメージを有権者に与えるだけであり、勝てる選挙であっても勝てなくなる可能性があります。

私は、脱原発に関してだけ言えば、反自民の統一候補をたてずに(つまり共産党は今まで通り独自候補をたてて)進むということも現実的にありえる話だと思っています。というのは原発事故とその結果の被曝の影響は伝染病と同様、右でも左でも、その人の主義主張とは関わりなく降りかかってくる災いですから。自民党だから被曝しないとか、共産党だから被曝するとかいうことはありえません。

今はまだ福島や北関東のホットスポットで密かに進行している被曝症状ですが、それが東京まで拡がってきた時、たとえ自民、公明であろうとも、原発とは手を切る決断を迫られるでしょう。脱原発に関しては、その時期が早いか遅いかの違いはあったとしても、いずれ辿らざるを得ない道だと思っています。原発と手を切る決断をする時よりも早く、次の事故が起こった場合、それは取りかえしのつかないことになりますが、原発を維持、推進する政府や自治体議員、首長を選んでいるのは同じ日本人なのですから、どうすることもできません。

たとえ都知事選で細川氏が当選したとしても、全国の原発を止めることはできなかった筈です。再稼動や原発新設を止めるには、何と言っても原発立地の自治体で止めるのが一番の近道です。しかし上関原発の新設で揺れている山口県上関町の町議会選(2月16日)で当選したのは、推進候補8人、反対候補2人という結果でした。定数が減らされる改選前の議会勢力図は、推進派9人、反対派3人でしたから、推進派の割合が少し多くなっていると言えます。事故が起こった時、故郷を追われ全てを失うのは原発立地に住む人達です。その人達自身がそういう選択をしている、あるいはそういう選択をせざるを得ない現実に目を向けずに、大所高所から脱原発を唱えても状況は変わらない...私はそう思います。

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(1)都知事選、脱原発派は敗れたのか 鎌田慧氏が寄稿(朝日新聞 2014.2.11)
http://www.asahi.com/articles/ASG2B6482G2BULPT11J.html

(前略)街頭演説では、「原発ゼロで日本を再生しよう」と訴え続けた小泉純一郎氏と細川氏との元首相コンビが、圧倒的な人気をみせていた。どこでも千人を超す人垣ができた。(中略)
 細川氏と小泉氏は原発ゼロの経済効果を説くばかりではなく、政治の流れを変える、とも語った。保守派からの「安倍右傾化」批判でもあった。自民党から除名された舛添氏を、安倍首相が担いで選挙を戦ったのは、ほかに勝てそうな候補がいなかったからだ。(中略)
 選挙戦がはじまったとき、細川選挙事務所にいってみると、運動員はいない、ビラはない。街宣車のマイクが小さい。指揮系統がはっきりしない。集まってきたボランティアは、仕事がなく、すごすご帰るありさまだった。(中略)「舛添が勝った」というより、細川選対の準備不足の敗北だった。
 せっかく、二人の元首相が、「原発を認めたのは無知だった。間違いだった」と公衆の面前で重大な告白をしても、宇都宮氏を推す共産、社民の陣営はかつての小泉政治を批判して聞く耳をもたず、共倒れとなった。日本の政治の未成熟さだった。(後略)

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(2)天木 直人「脱原発一本化を拒否した共産党に対する鎌田慧氏の批判の衝撃」(YAHOOニュース 2014年1月29日) http://bylines.news.yahoo.co.jp/amakinaoto/20140129-00032088/ 

1月28日の東京新聞「本音のコラム」で私がかねてから敬愛しているフリージャーナリストの鎌田慧氏がものすごい共産党批判を行った。すなわちナチスと対抗するために、1935年のコミンテルン大会で、多様で広範な、民主主義を守るための共同行動を熱烈に訴えたブルガリアの共産党政治家デミトロフを引用し、彼の反ファッショ統一戦線結成呼びかけの「獅子吼」に対し、同僚の共産党政治家たちが応じなかった歴史を指摘したうえで、次のように鎌田氏はそのコラムを締めくくっている。
「戦争に向かおうとしている、いまのこの危機的な状況にもかかわらず、広く手を結んで共同行動に立ち上がらず、あれこれ批判を繰り返している人たちに訴えたい。いったい敵は誰なのか、と。」

これは明らかに脱原発一本化を拒否した日本共産党に対する鎌田氏の批判である。ここまで鎌田氏が書くということはよほどのことだ。

そして私はまたここでも鎌田氏の思いを共有する。

しかし、私はそもそも無理をして脱原発一本化を図る必要はないと最初から思っていた。候補者を一本化できなければ細川候補が当選しないようでは、所詮安倍首相の原発推進を方向転換させることなど、最初から無理なのだ。宇都宮候補の票を頼らなければ舛添候補を破れないようでは、細川・小泉連合はそもそも敗北なのである。(中略)候補者を一本化できなかったから細川候補が勝てなかったというような発想では、とてもこの国を脱原発にすることは出来ない。ましてや共産党にそれが出来るわけがない(了)

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2014/02/18

339 名護市長選挙と都知事選挙-13

◆沖縄の革新共闘会議とその進化

沖縄の統一候補を生み出すプロセスをお手本として考えると、今回の都知事選の一本化ではこのどちらも欠けていたということが分かります。沖縄では今年の11月の沖縄県知事選に向けた候補を選考する委員会を既に立ち上げているということです(1)。9ヶ月前から、各政党、政治団体が同じテーブルについて論議しつつ、統一候補の選定準備をするのです。都知事選の脱原発候補を一本化するのであるならば、こういう努力が必要だったのではないでしょうか?

沖縄では更に今回は初めての試みとして、これまでの革新勢力に加え、中道・リベラルを含めた枠組みを構築するということです。都知事選の細川勝手連は「共産党が入っていると勝てないから、共産党が支持母体となっていない候補者で一本化する」という方針だったのでしょうが、沖縄知事選の革新知事候補の選考はそれとは正反対の方向に進化しています。中道・リベラルを捲きこんで、より大きな勢力にしていこうとしているのです。

勿論、今回の都知事選は12月18日の猪瀬元知事辞任によって急に決まったものだとはいえ、徳洲会問題は11月末頃から既に問題になっていたのです。本当に脱原発候補の一本化を望むなら、この頃からその作業と論議を進めることもできたでしょう。内情を知らない私たちの見えないところで何が行われていたかは分かりませんから、もしかしたら一部の人達の間ではそのような作業と論議が進められていたのかもしれません。しかし、それは反自民勢力の政党や政治団体に等しく声をかけて行われていたものとは思えません。

統一候補を生み出すプロセスを軽んじて、単に「勝てる候補」を探してきて支持を表明し、「勝てない候補」には辞退を迫るというやり方は、脱原発だけでなく、これからの市民運動の道筋に大変な汚点を残したと思います。プロセスを無視して「勝つ」という結果だけを求めようとしたことは、選挙という政治活動を通して民主主義の内実を豊かなものにしていくことに反するものでした。

「いくら理想論を言っても勝たなければだめ」というのはある真実を含んでいますが、だからといって手段を選ばず、強権的にやって良いということにはなりません。力で勝負するならば自民党に利があります。今回「勝てる候補」が自民の候補に負けたのは当然の結果とも言えるでしょう。

◆一本化についての論点整理
私がこう書くと、「闘いが終わったらノーサイド。いつまでも互いにいがみあっていたら脱原発派の共闘ができず、前に進めないじゃないか!」と言われます。もっと酷い場合には「細川候補よりも勝って2位になったからといってつけ上がるな!」と言われることもありますが、それは的外れな非難です。私は今回の都知事選の失敗の検証をしようとしているのであって、失敗を招いた人間を批判しようとしているのではありません。ツイッター記事を見ていると、この点だけでなく、様々な論点が整理されずに混在していて、いささか不毛な論議に陥っているように見えますので、ここで少し整理してみたいと思います。

  1. 一本化への努力そのものは批判されるべきことではないし、今後も時間をかけて取り組むべき課題。問題なのはそのやり方。今、失敗の検証を怠れば、また同じ分裂が繰り返されるかもしれない。
  2. 細川氏の政策も発表されていず、当然ながら政策のすり合わせもできない段階で、宇都宮氏へ一方的に辞退を迫った細川勝手連のやり方が問題。
  3. 細川勝手連に対する批判と細川氏に対する批判とは分けて考えるべき。細川氏自身は初めから一本化には賛成していず、「細川本人の脱原発の思いを有権者に直接訴えたいので(...)一本化についてはきっぱりお断りの返事」だったのだから(「名護市長選挙と都知事選挙-11」の注3参照)、一本化について細川氏自身を批判することは的外れ。
  4. 細川氏に、あるいは宇都宮氏に一票を投じただけの人にも責任はない。選挙結果を見ながら各自、反省することはあるかもしれないが、それは各人の内省の範囲内で留まる問題であり、他人がとやかく言うことではない。
  5. 細川氏自身に対する批判としては、公開討論会を15回も断ったこと、討論会の形式も自由なクロストークを拒否したこと。有権者が候補者の政策や人柄を見極めて投票するという、民主主義における健全な選挙のあり方に大きな禍根を残した。

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(1)知事選へ脱革新共闘 社・社・共と中道合流(沖縄タイムス 2014年2月17日) http://linkis.com/okinawatimes.co.jp/Ku1Xo

 県内政党の社民、共産、社大、生活と県議会会派の県民ネットは16日、那覇市内で11月の知事選に向けた候補を選考する委員会の第1回会合を開いた。社・社・共による従来の「革新共闘」ではなく、中道・リベラルを含めた枠組みを知事選で初めて構築する。焦点となる米軍普天間飛行場の返還問題への対応は、県内移設断念を政府に求めた「建白書」の内容を重視することで一致した。(中略)選考委は「オール沖縄」でまとまった建白書の下に結集することで、理念が一致する保守層にも支持を広げたい考え。(中略) 今回の枠組みで初めて選考委に参加する県民ネットは県議7人で構成し、県議会では野党第2会派の勢力。生活の党は玉城デニー衆院議員が県連代表を務めている。県職員労働組合がオブザーバーとして参加する。

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2014/02/15

338 名護市長選挙と都知事選挙-12

◆沖縄・名護市長選に学ぶ

共産党に対しては、そういう訳で私も人並みに不信感もわだかまりも持っています。共産党が過去の政策の誤りを率直に認めない無謬主義も、変化した現在の政策を本当に信頼できなくさせています。現在では原発即時ゼロの政策を掲げていますが、以前はそうではありませんでした。震災瓦礫の広域処理に積極的だったことについても反省の弁は見当たりません(その点では小泉元首相のやり方には見習うべきものがあります)。

このような問題点を持ちつつも、今の日本の状況で共産党を除外することを大前提として、脱原発の市民運動が成り立つのだろうか、とも思います。次の都知事選がいつになるかは分かりませんが、もし保守から脱原発の候補者が出なかった場合、脱原発派はどうするのでしょうか?ちなみに、細川氏は桝添候補の当選確定が出た後の記者会見で、もう国政選挙にも他の選挙にも出馬する意志はないことを明言しました(1a, b)。

名護市長選を見ていてつくづく羨ましいと思ったのは、自公を除く全野党が力を結集していたことです。札束で顔を叩くような飴と鞭の攻撃にも負けずに自公支持の候補者に対抗できたのは、力を結集してこそ得られた結果だったと思うのです。反自民で一本化するためにはどのような努力が必要なのか、何が今回の都知事選で欠落していたのかを知る事は、次の都知事選に向けて不可欠な作業だと思います。言うまでもなく、この作業は都知事選後に続く知事選挙(山口、京都、石川、福島など)、更に言えば2年半後の参院選につながるものでもあります。

このことに関して、座間宮ガレイ氏がとても興味深いインタビューをしています。沖縄復帰前に立ち上がった革新共闘会議において、なぜ統一候補を出せたのか、その背景について沖縄でインタビューをしています(2)。その内容は実際に聞いていただくとして、私の印象に残ったことまとめると、以下の2点になります。

  • 一本化する時に一番大事なのは政策の統一。一致点と妥協点を見つけること。互いの主義主張を言うだけではだめ。
  • 革新共闘会議は反自民の寄り合い所帯だが、接着剤となったのは沖縄独自の地域政党である社会大衆党だった。

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(1a)【都知事選】細川氏、無念3位で恨み節(スポーツ報知 2014.2.9) http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20140209-OHT1T00195.htm

 (前略)国政への再挑戦について問われると「考えていません」と否定。知事などの首長選挙に再出馬する可能性はあるのかとの問いには首をふって「いいえ」と明言。国、地方含め、政界には今後かかわらない意向を示した。 (後略)

(1b)動画 【東京都知事選挙】細川護熙氏選挙対策事務所中継  http://www.youtube.com/watch?v=WUwUZEr6fqM
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(2)沖縄が革新統一候補を出せたわけ 革新共闘会議について【竹富島 上間さんインタビュー】(12分過ぎから http://www.youtube.com/watch?v=y21kH60GMzE

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2014/02/14

337 名護市長選挙と都知事選挙-11

◆次の都知事選に向けて

桝添氏は知事にはなりましたが、いつまで知事の座に居続けられるか分かりません。今回の選挙では公職選挙法で告発されていますし、それ以前に2億5000万円の借入金の返済に政党助成金や立法事務費をあてた疑いも指摘されています。今回のように、次の都知事選が任期満了以前に行われる可能性もあります。その時に右往左往しないように、今回の選挙の総括をしておかなければいけないでしょう。

選挙の翌日、「脱原発都知事を実現する会」の鎌田・河合両氏から声明が発表されました(1)。小泉元首相は選挙終了後の2月9日、ツイッターアカウントを閉鎖するという素早い対応で多くの人を驚かせましたが(2)、この声明が出ている「細川もりひろ勝手連公式ブログ」のサイトもいつ閉鎖されるか分かりませんので、声明の全文を転載しておきます。

声明の中の「今後全国の原発を再稼働させず、原発に依存しない社会を実現するために、保守・革新問わず、さらに多くの勢力が連帯することが必要」という記述には素直に頷くことができませんでした。二つに分裂してしまった両陣営の支持者たちが、今後どのような関係を築いていくことができるのか、そのことに戸惑い茫然としている時に、そういう事態を招いた当事者として、これはあまりに無責任な声明文ではないかと思いました。

しかしこの声明文を読めば、鎌田・河合代表にこれ以上何かを求めても無駄だということもよく分かります。そうであるのなら彼等に対して実りのない批判をしても仕方がないことであり、こちらはこちらで問題点の洗い出しをしておく方が良いかと思いました。

◆共産党との関係
初めに立候補表明をした宇都宮氏に対して、後から立候補表明した細川氏の支持者が立候補辞退を迫る──普通ならとても考えられない、このような行動はどのような論理で出てきたのでしょうか?ここで決め手になるのはそれが仲間の間でなされたということです。彼等が「政党内部での候補者調整と同様なもの」と考ていたかどうかは分かりませんが、共倒れ防止のための調整という意味では似ているでしょう。

「脱原発という同じ目的を共有している仲間だから、目的のためにどちらかが辞退して一本化すべきだ」というところまでは理解できます。それがなぜ宇都宮氏の辞退に直結するのかというところが問題です。彼等の論理によれば「共産党が支持母体だから」というわけです。共産党が入っていたら絶対勝てない、保守から脱原発を掲げる候補者が出てきてくれた、この最後のチャンスを邪魔しないでほしい、というのです。

細川氏の政策発表もされていない時点での辞退要請ですから、当然のことながら宇都宮氏が辞退を断ると、「宇都宮氏の立候補の目的は共産党の党勢拡大であって、本当に脱原発を望んでいないのだ」という非難につながります。本当に恐ろしいような画一的な非難・攻撃の連鎖でした。そしてそれは今でも続いています。

共産党が党勢拡大しか念頭にないという非難に関して言えば、私もある部分共感するところがあります。小選挙区制では特にそれが顕著に現れるようになったと思います。選挙協力をして反自民の候補者を一人に絞れば当選できたと思うケースがこれまで何回もありました。自民党独裁を招いたのは共産党だというのは言い過ぎであるとしても、選挙協力をしていれば、これほどの悲惨な状態にはなっていなかったと思います。

衆院選の前には脱原発候補者が出すぎて共倒れが予想される選挙区が相当あったので、私は共産党の党本部と衆院議員全員に脱原発の他政党との協力を依頼するメールを出しました。「そんなことしても無駄!共産党は自民党の別動隊なんだから...」と言う人も多かったのですが、しないで後悔するよりは無駄でもしておく方が自分で納得できると思ってそうしたのです。その結果ですか?メールを受けつけたという反応さえなく、完全に無視されました。

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(1)脱原発都知事を実現する会代表世話人 鎌田 慧・河合弘之「声明」(細川もりひろ勝手連公式ブログ  2014年2月10日)
http://katterentokyo.seesaa.net/

 原発ゼロを掲げる都知事が実現できなかったことは誠に残念なことです。
 脱原発はすべての課題に優先する深刻な課題です。そのことが、選挙期間中に十分有権者に伝わらなかったことは非常に無念です。今後全国の原発を再稼働させず、原発に依存しない社会を実現するために、保守・革新問わず、さらに多くの勢力が連帯することが必要であり、私たちはそれに向かって全力を尽くすことを約束します。
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(2)小泉純一郎 @J_Koizumi_Japan 2014年2月9日
写真は僕が記者さんに配布した都知事選の結果についての自筆のコメント。慣れないツイッターを続けることができたのは皆さんの励ましやスタッフの協力のおかげ。本当に有難う。皆さんのご健勝を祈りつつ、これでツイッターを閉じさせていただきます。

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2014/02/12

336 名護市長選挙と都知事選挙-10

◆脱原発候補の一本化

一本化騒動の問題に関しては、バランスのとれた解説をしているブログ記事(1)があったのでご紹介します。著者の五十嵐仁氏は脱原発候補の一本化に関して以下のようにコメントしています。

「候補の「一本化」に当たって当選可能性だけを問題にしていたこと、宇都宮さんには当選の可能性はないと判断していたこと、そのために一方的に宇都宮さんに辞退を迫ったこと、その過程で、宇都宮さんとその支持者に対する誹謗や中傷が少なくなかったことなどが反省されなければならないでしょう。同時に、このような動きは客観的には宇都宮さんの足を引っ張る役割を果たしましたが、それにもかかわらず、宇都宮さんの得票が細川さんの得票を上回ったという事実を直視していただきたいものです。」

私も宇都宮候補を支持しつつ、細川候補の政策、特に国家戦略特区に関してツイッター記事を書いたためか、細川候補の支持者からツイッター上で何回か攻撃を受けましたし、現在もそれは続いています。「(負ける候補である宇都宮氏を支持するなんて、そうやって)負け続けた結果が安倍ファシズム。その反省はないのか?」というような具合です。

一本化すれば勝てるかもしれない──それは宇都宮候補の支持者だって同じ思いだったでしょう。実際、選挙結果を見ると、両候補者の得票数を合わせると、桝添候補の得票数には至らないものの、僅差です。

「分裂している、双方がいがみ合っている」という状態を見たら、普通の市民は近づきたくなくなります。しかし一本化して力を結集すれば、山本太郎議員も沖縄の名護市長選挙で示したような力のこもった応援を心おきなくしてくれたでしょうし(2)、得票数も伸びたかもしれません。

一本化できなかったことは細川陣営にとっても、宇都宮陣営にとっても大きな痛手でしたが、それが様々な事情で不可能だったならば、その事実を認め今後につなげていくしかありません。問題なのは、一本化できなかった責任は専ら宇都宮候補にあるという攻撃です。「辞退に応じなかったのは共産党が支持母体であるためだ。共産党は党勢拡大のためだけに選挙をする政党であり、本当に脱原発を目指していないからだ」という攻撃が姿形を変えて繰り返されました。

ここで滑稽なのは、細川候補も小泉元首相もこの一本化騒動には全く関わっていず(3)、当然のことながら一本化に関して宇都宮候補への非難、攻撃をしていないということです。一本化騒動で動いたのはこれまでずっと脱原発の為に活動し、1年前には宇都宮氏を支援した人達だったのです。一本化問題がどういうものであったか、宇都宮候補が選対会議で語った話を聞くと(4)、その奇妙な構図がよく分かりますし、その理不尽なやり方に対する宇都宮候補の怒りはもっともだと思います。

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(1)五十嵐仁「東京都知事選挙の結果について」 (ブログ「五十嵐仁の転成仁語」 2014.2.10)
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2014-02-10

(前略)反原発候補の得票合計は舛添さんに及ばなかったものの肉薄しており、宇都宮さんに「一本化」していれば結果は微妙だったかもしれないこと、(中略)特に、脱原発方針では共通していた宇都宮さんと細川さんのうち、細川さんではなく宇都宮さんが2番目になったことは大いに注目されます。実際には、細川さんよりも宇都宮さんの方が当選可能性が高かったということを示しているからです。(中略)

このような働きかけがどのようになされ、両陣営はどう対応し、どのような問題点や弱点があったのかなどについては、今後、きちんとした総括が必要でしょう。特に、その中心となって働きかけてきた「脱原発都知事を実現する会」には、事実を踏まえた誠実な総括を求めたいものです。(後略)
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(2)今回の都知事選について(山本太郎オフィシャルブログ 2014.2.10)
http://ameblo.jp/yamamototaro1124/

今回の都知事選、苦しかった。
今まで経験した自分の選挙やネガティブキャンペーンとは比べものにならない程、心身共に苦しかった(中略)
自分の中では、一つになって初めて、選挙選に突入する事が「最低条件」だった。
ひとつになって闘えない「戦」に対して自分は、「投票率アップキャラバン」以外の答えは出せなかった。(後略)

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(3)【IWJブログ】 脱原発派の一部リーダーが公約正式発表前の細川護熙氏を支持、その裏側とは…(2014年1月21日)  
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/120716

(前略)
河合「事実関係はこういうことです。私たち同志が集まって、『一本化を呼びかけよう』ということになり、両方に同一の書面を出しました。
 宇都宮サイドからは、細川さんと公開討論をしましょう、という返事が来た。(中略)
 かたや細川サイドからの返答は、いかなる政党、団体からも支援を受ける意志はなし、というもの。細川本人の脱原発の思いを有権者に直接訴えたいので、調整はいたしかねる、という、一本化についてはきっぱりお断りの返事でした。ただし、独自の立場での応援はどうぞ、とのこと。(後略)
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(4)動画「宇都宮けんじ、都知事選「脱原発」候補一本化問題で吠える!」(2014.1.16)
https://www.youtube.com/watch?v=qg0E0pvHSus

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2014/02/11

335 名護市長選挙と都知事選挙-9

◆幾つかの注目すべき結果

都知事選で桝添氏が当選することは事前調査である程度予測できたことではありましたが、私にとって幾つかの注目すべきことがありました。

a)投票率の低さ。大雪のためもあったとはいえ50%以下だった。
b)宇都宮候補2位(約98万票)、細川候補3位(約95万票)。
c)宇都宮候補と細川候補の差は3万票の僅差で、「有権者の手による勝てる候補への一本化」は実現しなかった。
d)田母神候補の髙得票(約61万票)。特に若年層に支持が多かった。

以上の3点のうち、私自身、判断を誤っていたのは「b)宇都宮票が細川票を抜いた」ことでした。「脱原発都知事を実現する会」が細川氏に一本化を求めた理由は「原発を止めるには勝てる候補でなければならない」ということでした。つまり「宇都宮氏では負ける」と判断したからです。私はその判断に対する反論として、最大票田である無関心・棄権者層を味方につければ負けるとは限らないと書きましたが(「331 名護市長選挙と都知事選挙-5」)、まさか大量の棄権者が居たにも拘わらず、細川候補よりも多く得票するとは、正直思っていなかったのです。

◆実現しなかった「有権者の手による一本化」
c)「有権者の手による一本化」とは何かというと、以下のツイッター記事に代表されるようなものです。

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佐藤 圭 ‏@tokyo_satokei
脱原発を掲げる細川、宇都宮両氏の一本化議論が賑やかですが、このまま選挙戦に突入ですね。でも、告示後の世論調査で、どちらかが抜け出せば、有権者の手で「一本化」されるのではないか。つまりリードした方に脱原発票が集中する。選挙戦前半は、いわば予備選的な位置づけになるわけです。
*****
「脱原発都知事を実現する会」の一本化要請の動きがあった後、ツイッター上では様々な議論が白熱しましたが、私が一番共感したのがこのような「有権者の手による一本化」でした。「勝てる候補」ということで分裂し、一本化が不可能になったのであれば、最後の段階で「有権者の手による一本化」をするのが一番自然だと思ったのです。しかしこれは実現しなかったということが得票結果を見ると分かります。

「そんなこと無理!宇都宮候補に一本化するなんて、共産党が支持母体である以上、実現できっこない」と言う人も居ましたが、それは細川陣営のうちの【保守+脱原発】層に関して言えることです。実際、1年前の都知事選では共産党を含んだ形で【リベラル+脱原発】が結集したのです。細川氏が立候補表明をしなければ、幾らかの移動はあったかもしれませんが、同様の脱原発連合ができていた筈です。

細川氏が立候補したことによって、原発に関する論議は確かに明るみに出されました。もっともマスメディアはあいかわらず黙殺しつづけたのですが、少なくとも今までよりは原発の嘘に関して知る人が増えたのは事実だと思います。細川候補にはそういう覚醒した【保守+脱原発】層の受け皿の役割を任せておいて、【リベラル+脱原発】の人達は勝てそうな宇都宮候補に集結することができたのではないでしょうか。

「結果は両候補者の票を足しても桝添票に届かなかったのだから、同じことでしょう?」と考える人がいたら、それは明日からの脱原発運動についてあまり考えていない人です。勿論、都知事選は脱原発に向かう重要な選挙ではありましたが、しかし誰が勝ったとしても、それで一気に脱原発ということにはなりません。たとえ細川氏が知事になったとしてもです。

安倍政権は相変わらず原発の再稼動を進めようとするでしょう。浜岡、東海第二など、東京都知事が何の影響力も行使できない近距離にある原発の再稼動中止に対しても抵抗していかなければなりません。都知事選後も両候補の支持者が一緒に脱原発の横断幕を持って歩ける関係を取り戻すには、「有権者の手による一本化」がとても、とても大事な局面だったのです。

◆田母神候補の髙得票
田母神候補が約61万票も集め、しかも特に若年層に支持が多かったということについては、多くの人が危惧の念を抱いたようです。私も今度の都知事選の結果のうちで、最も重要な現象の一つだと思っています。そして、それは低い投票率、宇都宮候補の思いがけない善戦と同根の原因によるものと思っています。これは重要な問題なのでまた項を改めて書くことにいたしましょう。

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2014/02/08

334 名護市長選挙と都知事選挙-8

◆規制緩和

規制緩和によって私たちの生活は本当に良くなるのでしょうか?
多重債務で苦しむ人々を救った決め手となったのは、規制緩和とは正反対の高金利を規制する法律の制定でした。

その逆の例がアメリカと韓国の場合です(1)。アメリカと韓国では、金利規制を全廃または緩和して金融の分野に自由競争原理を持ち込んだ結果、「弱肉強食」状態になり、大変な数の経済的困窮者を生み出すことになりました。

金利に関し選択の余地のない低所得層が、高金利の餌食となり(ある場合には年数百パーセント)、消費者破産件数の増大(アメリカ)や自殺、夜逃げ、犯罪が多発(韓国)という結果を招きました。

◆福祉、教育、医療、雇用
福祉の分野で規制緩和が行われた場合はどういう心配があるでしょうか?東京都は保育所が不足しているという点で突出しています。不足しているなら「何でも良いから数が足りれば良い」ということで、規制緩和が行われた場合はどうなるでしょう?保育士一人当たりの子供の人数や子供一人当たりの必要面積は法律によって規制されているのですが、その規制を緩和することが保育環境の劣悪化につながる心配もあるわけです。教育、医療も同じ問題を孕んでいます。

国家戦略特区がどういうものになるのかということは、実はまだよく分かっていませんし、私も解説するだけの知識は持っていません。しかし国家戦略特区とは、TPPの布石であり、これを突破口として、グローバル大資本の支配が日本全国に及ぶものだという懸念は最近あちこちで語られるようになってきました(2)(3)。

穿った見方をすれば、「細川氏は宇都宮氏を狙った刺客」ということになるでしょう(4)。主要4候補者の中で特区に反対しているのは宇都宮氏だけであり、宇都宮知事の誕生は何としてでも阻止しないといけないという枠組みの中から出てきたのが細川氏擁立というわけです。

脱原発票が細川氏に流れれば、脱原発票は割れて宇都宮氏が当選する可能性は低くなります。当選するのが桝添氏であれ、細川氏であれ、一番大事な特区推進という目的は達することができるという解釈です。

ただし肝心の細川氏がそういうもくろみのもとに動いているかどうかはまた別の問題です。「腹七分目の豊かさでで良しとする成熟型の社会を目指して、パラダイムの転換を目指す」という立候補の動機を聞くと、そこには真実の響きがあります。今後日本が脱原発をしていく上で不可欠な、とても大切な問題提起をしているとも思えるのです。

しかし、そうであるなら尚更の事、なぜ細川氏が弱肉強食の世の中に進んでいく国家戦略特区に賛成する政策を掲げるのか、その理由が分かりません。私の推察では、細川氏は特区についてあまり理解しない状態で、周囲に言われるがままに政策に入れたのではないかと思います。

もしこれが真実を言い当てているのだとすると、全く小泉元首相の権謀術策には舌を巻くしかありません。細川氏の心根が純粋なものである故に、その話は人々の心を捉え、人々はまさか細川氏が国民を奴隷化する政策に加担するとは思わないからです。同じ脱原発の旗印を掲げて小泉元首相が立候補し、その一方で国家戦略特区の推進を政策とした場合、人々の警戒心を呼び広範な支持を得ることはできなかったでしょう。

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(1)出資法の上限金利の引き下げ等を求める意見書(東京弁護士会 2005年11月7日) http://www.toben.or.jp/message/ikensyo/post-229.html

(前略)アメリカと韓国では、金利規制を全廃ないし緩和して金融の分野に自由競争原理を持ち込んだ結果、「弱肉強食」の結果を発生させ、果てしなく経済的困窮者を生み出すことになった。
(中略)アメリカでは、1980年代の規制緩和政策の一貫として、消費者金融市場においても自由競争によって、貸付金利の低下を企図する政策がとられ、金利規制を緩和ないし撤廃する州が多くなった。(中略)これらの結果、アメリカでは、1980年に30万件弱だった消費者破産件数が2002年には約157万件にまで増加している。(中略)

1997年のアジア諸国の通貨危機は韓国にまで達し、その結果韓国は、IMFから融資を受け、その管理体制下に入った。そして、IMFは韓国に対し、急激な自由化、民営化を求め、その一貫として、利子制限法が撤廃され、金利が自由化された。
 その結果、年利数百%もの超高利金融業者が横行し、信用不良者(多重債務者)が激増して政府の公式見解でも370万人を超え、経済的理由による自殺率は世界一と推計され、夜逃げ、犯罪が多発するなど大きな社会問題となった。(後略)
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(2)ゆりかりん @yurikalin「都知事選の隠された争点! 〜郭洋春著『TPP すぐそこに迫る亡国の罠』を担当した女性編集者の視点から」 (IWJブログ・特別寄稿) http://iwj.co.jp/wj/open/archives/122674

◆竹中氏のもたらす『国家戦略特区』という罠◆
(中略)TPPのもとで行われる『国家戦略特区』というのは、全ての分野で市場原理を導入して、弱肉強食社会を実現しようという流れの中に位置づけられるのです。 (中略)『国家戦略特区』とは、TPPの布石であり、これを突破口として、グローバル大資本の支配が日本全国に拡散する呼び水となるものです。   

 ということは、これこそが、都知事が何としても阻止すべき課題、そして、本来なら最大の争点とされるべき論点ではないでしょうか?  

 なぜなら、都知事として、都民の生活を守るために、『国家戦略特区』は拒否するという意思表示を明確にすることは実行可能だからです。  (中略)  

 公立学校の民間への運営開放は、格差や競争教育を拡大し、平等で健全な教育の場を、子どもたちから奪い去るものです。(中略)真の意味で「安倍首相の暴走を阻止」したいなら、TPPの布石となる『国家戦略特区』に対してあえて触れない候補者、または、『国家戦略特区』を推進しようとしている候補者に一票を投じてはいけないのです。 (略)
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(3)内田聖子「いのちの市場化」にNO!~TPPと国家戦略特区は「新自由主義」を実現する双子である (IWJブログ特別寄稿 2014.2.6) http://iwj.co.jp/wj/open/archives/124000#more-124000

(前略)昨年、TPPの先取りとして位置づけられる「国家戦略特区」がアベノミクスの一連の取り組みとして提起された。これを初めて見たとき、私はすぐさま「これはTPPとまったく同じだ!」と確信した。その中身を知れば知るほど、この二つはその本質を同じくしていることがわかった。

 国家戦略特区は、「世界で一番ビジネスのしやすい環境をつくる 」ため、「大胆な規制改革と税制措置、新しい技術やシステムによるイノベーション」を駆使する、「これまでとは次元の違う」プランなのだという。具体的には、「外国人への医療サービス提供の充実 (外国人医師の国内医療解禁、病床規制の見直し等)」や「有期労働契約期間(5年)の延長 (契約型正規雇用制度の創設) 」「公立学校運営の民間への開放 (公設民営学校の解禁) 」などである。

 ここでいう「規制改革」とはまさに、TPPでいうところの「(非関税)障壁の撤廃」であり、要は「企業がビジネスを進めるうえでの法律やしくみ、慣行はジャマだから取っ払え」ということだ。(中略)
 このプロジェクトを推進する面々は、竹中平蔵をはじめとする新自由主義推進者であり、TPPに賛成しているメンバーも多々含まれている。(後略)

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(4)驚いた!「国家戦略特区」を肯定する細川氏は宇都宮氏を狙った刺客なのか!? ( ブログ 神州の泉 2014年1月27日)
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2014/01/post-7ad9.html

細川氏の国家戦略特区についてのイメージは、安倍政権が成長戦略のかなめとして打ち出している「国家戦略特区」の「世界一ビジネスがしやすい国」という展望にぴたりと合致しているばかりか、医療や教育の企業化という部分でも重ね合っている。(中略)

“原発ゼロ政策”に傾注した細川氏が、急場しのぎで他の公約を設えたとき、『国家戦略特区』の邪悪な真相を見抜けずに、特区構想について語る安倍政権の偽装説明にすっかりごまかされている可能性もある。

だが、もしも細川氏が国家戦略特区を充分に理解したうえで、これを肯定しているとすれば、彼は舛添要一氏と同じ自民党の別動隊として、宇都宮氏の刺客として登場した可能性も出てくる。

もしもそうであるならば、小泉氏の原発ゼロ政策は虚妄の騙し手口であり、安倍暴走政権を強力にバックアップする攪乱戦法として出てきたことになる。
それほど“国家戦略特区”は新自由主義を先鋭的に実現する政策なのだ。(後略)

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2014/02/04

333 名護市長選挙と都知事選挙-7

★パブリックコメント

まず、いわゆる「国家戦略特区」に関するパブリックコメント(1)提出のお願いです。公示されたのが1月31日で、〆切が2月13日です。秘密保護法案の時と同様に、わずか14日間という短さです。法律では「意見提出期間は、公示の日から起算して30日以上」とされていて、それより短い場合は「その理由を明らかに」する必要があるのですが(行政手続法 39条3項、40条1項)、それに関しては何の説明もなく短期間で募集を締め切ろうとしています。

本当に意見を聞こうとしているのではなく、「意見を募集した」というアリバイ作りなのでしょうが、それでも何も言わずに放っておく訳にはいきません。氏名、連絡先などすべて空白でも大丈夫で、ただ「国家戦略特別区域方針にも構造改革特別区域方針にも反対で、このようなパブコメ募集の仕方に問題がある」だけでも良いのでまずは意見を提出して下さい。

◆国家戦略特区
「あれっ?都知事選挙の話はもう終わりで、特区の話に移ったの?」と思う人も居るかもしれませんが、そうではありません。この「特区」問題は都知事選と深い関係があり、もしかしたら都知事選の本当の争点なのかもしれないのです。実を言えば私自身、つい最近まで「特区」のことなど、まるで意識していませんでした。その中身は言うに及ばず、秘密保護法が国会を通過した、まさにその日に通過したと言う事も知りませんでした。インターネット番組で都知事選立候補者の話を聞く中で、宇都宮氏の話の中に出てくる「特区」とは何だろうと思うようになって調べたら、まさに宇都宮氏自身がその解説を書いていたのでご紹介します(2)。

たとえば「雇用特区」の概要は、まさにブラック特区、解雇特区というに等しいものです。

★入社時に契約した解雇条件にあえば、どんな解雇でも認められるようにする。
★一定の年収がある場合などは、労働時間の規制がなくなり、残業代が出なくなる。休日や深夜労働の割増賃金もない。
★短期契約を繰り返す労働者が、五年超働いても無期転換できなくする契約を認める。

「特区」という視点から細川、宇都宮、両候補者を見てみると、この二人の候補者は脱原発という共通項でくくるには、あまりに大きな違いがあることに気が付きます。細川氏は特区に賛成であり、そのことを政策(3)の中に明記しています。宇都宮氏は勿論反対の立場であり、特区によって憲法で保障されている人権が骨抜きになることを危惧しています。

「特区」と「規制緩和」は表裏一体のものであり、規制緩和という言葉を聞くと、何か良いイメージを抱きます。規制によってがんじがらめになっている状況に風穴があき、自由に活動できるようになるというイメージです。正直言って私自身、そういうイメージを持っていました。

イメージが180度転換したのはデモクラTVのインタビュー番組(4)で、宇都宮氏が長年闘ってきたサラ金金利の話を聞いてからです(ちなみにこのインタビュー番組は選挙期間中は無料で視聴できますので、是非、細川氏のインタビューと合わせて聞いてみて下さい)。

アメリカでは年数百%の金利が合法化されて、年間200万人もの人が自己破産し、もの凄い経済的困窮者が出る結果になっています。それに反し、ヨーロッパ諸国、例えばドイツやフランスでは金利の制限を厳しくしているというのです。そもそも銀行が低い金利でお金を貸すために、日本のようにサラ金やヤミ金が存在しないというのです(5)。

これには驚きました。規制緩和という、何か自由で経済活動を活発化させるイメージの裏には、恐るべき弱肉強食の世の中が出番を待っているのです。

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(1)パブコメ概要:国家戦略特別区域方針(案)及び構造改革特別区域方針(案)に関する意見募集について http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=060140131&Mode=0 
パブコメ 意見提出フォーム  上記ページの一番下の「意見提出フォームへ」をクリック
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(2)宇都宮健児『国家戦略特区は「憲法番外地」』 (週刊金曜日 2013年10月17日)http://blogos.com/article/71870/  

「国家戦略特区」の名のもと、大規模な生活破壊が進みつつある。(中略)

 提示された「雇用特区」の概要は、(1)入社時に契約した解雇条件にあえば、どんな解雇でも認められるようにする(2)一定の年収がある場合などは、労働時間の規制がなくなり、残業代が出なくなる。休日や深夜労働の割増賃金もない(3)短期契約を繰り返す労働者が、五年超働いても無期転換できなくする契約を認める、などとなっている。(中略)

これでは憲法二七条や労働基準法、労働契約法が定める労働者の権利は全く認められない「解雇特区」「ブラック特区」である。「雇用特区」は企業にとっては天国であるが、労働者にとっては正に地獄である。(後略)
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(3)細川護煕:政策 http://tokyo-tonosama.com/ 
「都市基盤の整備をすすめ、美しく機能的な首都へ」

東京の発展を支える産業基盤の育成をはかるため、「国家戦略特区」も活用し、魅力的なビジネス拠点の形成に努めることで、グローバルな都市間競争に勝ち抜けるようにしていきます。(中略)
民間活力を生かした都市インフラ整備を推進します。「国家戦略特区」を活用し、羽田空港の国際化、都心拠点の拡充、先端的な医療環境や教育環境の整備に努め、住みやすさとビジネス機能性を両立させた都市作りを進めます。
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(4)デモクラTV スペシャルインタビュー  http://dmcr.tv/index.html
2014.1.13 宇都宮健児さんに聞く
2014.1.22 細川護煕さんに聞く
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(5) 宇都宮健児「弱者の守るのが弁護士の使命─人間は他人のために頑張れる」(人材バンクネット「魂の仕事人 第10回その5」2006.5.1)  http://www.jinzai-bank.net/edit/info.cfm/tm/036/

(前略)実際にサラ金にお金を借りに行く人のほとんどは、生活費が足らなくてどうしようもなくなって行くんですね。一般に言われてるようなギャンブルや遊興費のための借り入れなどは極めて少ない。(中略)

 アメリカなんかはもっとひどいですよね。アメリカ社会ってのは年数百%の金利が合法化されちゃってるんですよ。だから年間200万人もの人が自己破産している。アメリカはどんどん貧富の差が激しくなってますよね。(中略)

日本の社会をそうはしたくないから我々は金利の引き下げ運動をしているわけです。(中略)利息制限法で決められている制限金利の年15〜20%までただちに下げるべきです。(中略)でもヨーロッパ諸国にはまだ全然及ばない。ドイツやフランスでは金利の制限を厳しくしているから、サラ金やヤミ金が存在しないわけですよ。銀行が低い金利で貸すからね。(後略)

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2014/01/29

332 名護市長選挙と都知事選挙-6

◆政治への無関心と棄権

「政治とか選挙には関心がない」という若い人達が沢山います。「選挙に行っても行かなくても、何が変わるわけでもなく、それよりはもっと面白いことに折角の日曜日を使いたい」というわけです。ヘトヘトになるまでこき使われる毎日であれば尚更です。

「原発報道あれこれ-327」でもご紹介した座間宮ガレイ氏は、このような若い人達に対し、決して「選挙に行きなさい」とか、「棄権しては駄目」とか言うべきではないと言います。ではどうするのかといえば、「選挙それ自体はつまらないけれど、政治活動と選挙活動は面白い」ということを実感してもらうことが必要だと言うのです。この考えには全く同感です。でも「面白い」と感じてもらう前に、「あと一つ、何かが必要なのではないか、それは何だろう?」と心の中にひっかかるものがあり、私はそれをなかなか言葉で表すことができずにいました。

先日、ニコニコ生放送の番組「宇都宮けんじと若者が大いに語る〜雇用、貧困、格差、社会保障、自殺〜」(1)を見て、私はやっとそれが何であるか分かりました。

◆自己責任論による抑圧
出演者の一人である須田光照氏は、長年ブラック企業や過労死の問題に取り組んできた方ですが、「被害者の多くは、自分が悪いと思い込んでいる」という話をしていました。そんな馬鹿な事があるでしょうか?なぜ被害者は企業が悪いと思わずに、自分が悪いと思うのでしょうか?

ここからは私の推察ですが、被害者のその心理は「仕事が辛いのは自分の仕事が遅いから、能力が低いから、こんな学歴だから」と思うことから来ているのではないかと思います。つまり、「自分は負け組であり、負け組の自分には文句を言う資格はない。悔しかったら勝ち組になれと言われるに決まっているし...」という自己責任論による抑圧の心理が働いているのではないかと思うのです。

いつからこういう風に思わされるようになったのでしょう?ブラック企業に使い捨てにされても「自分が悪い」と思うように仕向けられる...このような自己責任論による抑圧は、やはり小泉政権の新自由主義的な構造改革を発端とするのではないかと思います。これで思い出すのは、小泉政権の時に経済関連の様々な大臣を勤めた竹中平蔵氏が「みなさんには貧しくなる自由がある」いう発言です(2)。若い人達の政治への無関心と棄権は、このような自己責任論による抑圧を内面化することによって生まれた心理からきているのではないでしょうか。

本来ならば格差社会、貧困、ブラック企業に代表される非人間的な労働環境などは、これからの世の中を生きていく若い人達にとって切実な問題である筈です。その解決を求めるならば、当然のこととして政治問題に関心を持つ筈であり、選挙になればその話題で盛り上がる筈なのに、そうならないのはなぜでしょう。それは非人間的な労働環境で働き、辛い日々を送っているということを率直に言う事ができない──言えば、自分が負け組だと認め、それを他の人に白状することになるからではないかと思うのです。

◆憲法で保証された権利
憲法の第二十五条では「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と書かれていて、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と決められています。それは個人の能力、性別、学歴、いわゆる勝ち組や負け組に関わらず、全ての国民が平等に持っている権利である筈です。

この事が分かっているならば、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」が侵された時、その状況を変えようとするでしょうし、個別的な解決を求めるだけでなく、政治的解決にも目を向ける筈ですが、実際にはそうはなりません。自己責任論による抑圧を内面化し、負け組であることを表面化したくないために、自らの権利を主張せず(あるいはそういう権利があることさえ知らず)、政治や選挙に無関心になり、「選挙に行っても行かなくても、何が変わるわけでもない」と考えて棄権するのではないでしょうか。

◆世代間の亀裂
非人間的な労働環境や、格差社会を背景とした貧困の問題に関する意識は、世代間格差がかなりあるのではないかと思います。現在の日本の労働環境は私たち団塊の世代が社会に出た頃とは大きく変わってしまいました。非正規労働者が3人に1人というような労働環境を想像することは中高年層にとっては難しいのではないかと思います。本当のところ、私もそのような酷い労働環境の実態を知るようになったのは、ここ数年のことですから。

こう考えると、竹中平蔵氏の「貧しくなる自由」発言を聞いた時、何とも言えない不快感を感じはしたものの、それ以上、何をすることもなく毎日を過ごしてきた私自身の無為に思い至ります。若い人達が政治に無関心になり、棄権するようになる状況を何とかせずに、ただ「棄権すれば、そのツケは自分達に跳ね返ってくる」と上から目線で小言を言っても、(それがいくら本当の事ではあっても)彼等の心には届かないでしょう。

国民を奴隷化する秘密保護法、格差社会、軍国主義化によって直接被害を受けるのは若い人達です。政治とそれを動かす選挙は、かつてないほど私たちの生活に直接影響を及ぼすものになっています。自民党が過半数を占める国会で、日本は着々と軍事国家に向かいつつあり、自民党の改憲案では自衛隊を国防軍にしようとしています。国防軍になれば「出動命令に従わない場合、死刑、または懲役300年にすることができる」という石破幹事長の発言もあります。

若い人達が自己責任論による呪縛から逃れ、状況を自らの力で変えていくために、政治や選挙に関心を持ってほしい、それはわくわくする程面白い事だと知ってほしいのです。
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(1)福島みずほのニコニコ生放送 2014年1月27日 「宇都宮けんじと若者が大いに語る〜雇用、貧困、格差、社会保障、自殺〜」 <出演> 宇都宮けんじ 福島みずほ(社民党副党首) 大西連(自立サポートセンターもやい) 須田光輝(東部労組書記長) 田口まゆ(自死遺族の会) http://live.nicovideo.jp/watch/lv166833632
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(2)竹中平蔵(下)「リーダーは若者から生まれる」(東洋経済 2012年11月30日) http://toyokeizai.net/articles/-/11927?page=2

(前略)私が、若い人に1つだけ言いたいのは、「みなさんには貧しくなる自由がある」ということだ。「何もしたくないなら、何もしなくて大いに結構。その代わりに貧しくなるので、貧しさをエンジョイしたらいい。ただ1つだけ、そのときに頑張って成功した人の足を引っ張るな」と。(後略)

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2014/01/22

331 名護市長選挙と都知事選挙-5

◆細川氏が勝てるという根拠は?

「脱原発都知事を実現する会」が細川氏支持を決めたのは、ずばり言って「脱原発の旗印をあげて勝てる可能性のある候補」だからです。逆に言えば「宇都宮氏では負ける」と判断したから「苦渋の決断をして」細川氏支持を決めたのです。しかし細川氏が勝てると判断し、宇都宮氏が負けると判断した根拠はどこにあるのでしょう?猪瀬氏に投票した400万票がそのまま桝添氏に行くという前提で、一体どのくらいの人が宇都宮氏に乗り換えて投票してくれるだろうかと考えるのであれば、宇都宮氏では「初めから負け戦」と思うのは無理もないでしょう。でもこの考え方は棄権した人達を勘定に入れずに出した結論です。2012年の都知事選の投票結果は以下の通りです。

■投票率 62.60%(有権者数 1061万9652人)
■投票総数 644万7744票(棄権者数 417万1908票)
■猪瀬直樹 4,338,936 65.27%
■宇都宮健児 968,960 14.58%

つまり、棄権者層は猪瀬票に匹敵するほどの大票田ということになるのです。もし「自分達の日々の暮らしと都知事選とは何の関係もない」と思って棄権していた若い人達が動き、母数が変化するならば、猪瀬票の65%という数字は霧散します。問題となるのは無関心・棄権層をどのようにして動かすのかということです。

秘密保護法、格差社会、軍国化によって奴隷化され、被害を受ける若い人達に、これらの問題が自分たちの問題であると受け止めてもらい、行動してもらう必要があるでしょう。このような努力をせずに「勝てる候補」を応援する...悲しいことですが私はそこに「脱原発都知事を実現する会」の人々の老いと焦りを感じました。

もう一つ、マスコミでは決して指摘されないことも書いておく必要があるでしょう。宇都宮氏では勝てないという判断は、選挙が公正に行われたということを前提にしています。私は不正選挙が行われたと言うつもりはありませんが、その逆のこと、つまり不正は決してなかったと言う事もできません。開票の仕組みが不透明であり、ある意図をもって操作しようとすればできる仕組みになてっているのではないかという疑念を抱きます。

たとえば2012年の知事選の区域毎の得票数を調べたサイトがあります(1)。票数を漫然と見ているだけでは単なる数に過ぎないものが、そこに「比率」というフィルターをかけるだけで、単純ではあるが驚くべき相関関係が見えてくるという調査をした人が居ます。そこにはきっちり65%で推移している猪瀬票のグラフが示されていています。

こういう不審なことがある以上、市民による出口調査をきっちり行うことが必要でしょう。後でおかしなことがあったと言っても、それを証明することは困難です。病気と同じで、予防が第一です。

◆一本化は不必要
以上、書いてきたことから、私が宇都宮氏に一本化すれば良いと考えているように見えるかもしれませんが、そうではありません。良い、悪いの問題以前に、それは実現し得ないことであり、そのことが正に細川知事候補の性格を物語っているのです。

細川氏が本当に脱原発を実現しようとして立候補を決めたのなら、その知名度を生かして宇都宮氏の応援団に回って一本化するという事も理屈の上ではあり得ることでしょう。何しろ、ずっと前に立候補を表明し、具体策を提示してきたのは宇都宮氏なのですから。「細川元首相が応援し、保守から共産党まで一丸になって脱原発を掲げている!これは本物だ!」と話題になり、人々の関心を惹きつけるに違いありません。

でもそれは実現しないのです。保守から、脱原発を掲げて立候補するということが細川・小泉元首相の主眼であり、宇都宮氏の人権を守ろうとする政策とは相入れないからです。脱原発を(即刻ではないにしても)目指すということは本当かもしれません。そもそも原発は経済的側面からしても、採算に合わないということは、自民党であっても少し計算ができる人ならば分かっていると思います。それを、いつ、どのような体裁をとって打ち出すかということが難しい問題で、この問題を曲芸師のような技で解決しようとしているのが細川・小泉元首相だと思います。

更に言えば、一本化しないことの良さもあるのではないかと思います。細川氏が立候補することによって、脱原発派ばかりでなく、保守側も割れる可能性もあるからです。世論調査を見ても分かる通り、国民の大半は脱原発を望んでいます。しかし、今までは【保守+脱原発】層が投票できる脱原発候補というのはほとんど存在しませんでした。細川氏がその受け皿になるならば、むしろ歓迎すべきことなのかもしれません。

一番望ましいのは、【保守+脱原発】の細川氏と【リベラル+脱原発】の宇都宮氏の両候補が一位、二位を争う状態になることです。選挙期間中に宇都宮氏に勝算ありということになれば、「脱原発都知事を実現する会」は宇都宮氏支持に回るのでしょうか?勿論そうすると私は期待しています。しかしそれ以前に、【リベラル+脱原発】は各人が無党派層の関心を呼び起こす努力をして、宇都宮氏を応援することに全力を傾けてほしいと思うのです。私は都民ではありませんが、都民でなくてもカンパ、ビラ撒きなど手伝えることは沢山あります。カンパしたお金で自分の応援する候補が勝った時の喜びは、とても一口で表すことはできません。

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(1)H24都知事選の各比較グラフ http://ameblo.jp/ghostripon/entry-11455576395.html   

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330 名護市長選挙と都知事選挙-4

◆争点は脱原発だけか?

「脱原発都知事を実現する会」は都知事候補を選ぶ基準として、脱原発を最優先事項としていますが、それは本末転倒なのではないかと思います。今回の都知事選の争点は、基本的人権を保障された社会で、自由に安心して暮らしていくことができるかどうかということが最優先課題だと思うのです。

原発はそれを妨げる一つの項目(勿論とても重要な項目ではありますが)でしかないのであり、細川氏がその他のことについてどう考えているかは問題にされていません。表現の自由が脅かされ、軍事国家に向かう安倍政権に明確に立ち向かうのかどうかを確かめることもせずに、ただ「脱原発で勝てるから」という理由で応援しようとするのは不思議でなりません。

小泉・細川両元首相は秘密保護法や辺野古への基地移設問題に対して反対表明をしたでしょうか?東京の横田基地に対してはどう考えているのでしょう?

格差社会がもたらす貧困問題、それを背景にしたブラック企業の存在も深刻な問題です。格差社会は言うまでもなく小泉政権から始まりました。小泉元首相は原発を推進してきたことに対する反省と方向転換は率直に表明したものの、格差社会を作り出した責任と反省は私の知る限り、何も表明されていないと思います。

肝心の脱原発政策でさえ、細川氏がどれだけの覚悟で脱原発を実行しようとしているのか分かりません。1月14日に出てきた公約案では「即時ゼロではなく、徐々に依存度を減らす方針」であり、「柏崎刈羽原子力発電所の再稼働については、反対を明確に打ち出すかどうか慎重に検討」(1)と言っています。その程度の脱原発であるならば舛添氏も同じであり、両者の違いは曖昧なものになってしまいます。

もっとも今日、1月22日の記者会見(2)の初めの部分で読み上げた声明はとても好感の持てる内容でした。「これまでの経済成長至上主義では日本はやっていけない。腹七分目の豊かさでで良しとする成熟型の社会を目指して、パラダイムの転換を目指す、それが脱原発を目指す政策の土台になっている」というのです。

「原発をゼロにする、原発の再稼動は柏崎刈羽を含めて認めない」と明言もしたので、この点に関しては「脱原発都知事を実現する会」が「確約をとった」と発表した通りでした。

もっとも、予め用意した声明を読みあげている限りでは辻褄が合った内容でしたが、細川氏の原発政策に関するこの間の推移を考えると、状況によって左右に揺れる可能性も残していると思います。公約案発表の会見を2回も延期しましたが、それは脱原発に対する方針が揺れ動くため、ぎりぎりまで発表を延ばして周囲と調整してきたとも考えられます。

ある時は段階的廃止と言い、ある時は即刻ゼロと言うにように揺れて定まらない脱原発政策ならば、仮に当選したとしても第二の仲井真沖縄県知事になる可能性もあるでしょう。昨今は当選したら公約を破ることなど全く珍しいことではなくなっていますから。支持者の方々は「細川さんはそんな悪い人ではない!」と反論するかもしれません。しかし良い人だからこそ、回りを囲む人達の圧力によって次第に変化していく可能性もあるのです。相手は原子力マフィアです。一歩も退く事無く闘う決意と粘り強さが必要ですが、会見を見ている限り、細川氏にはその気迫と強さが感じられませんでした。

「原発報道あれこれ-328」で紹介した守田敏也氏が「小泉元首相の原発ゼロ宣言をいかにとらえるのか?」で書いているように、「何十年後かの原発の廃止という、実現されるかもどうかも分からない公約と引き換えに、民衆の側は、TPPなどの新自由主義政策の強化や、自衛隊のアメリカの属国軍化への抵抗力も失ってしまいかねない」という危険性は十分にあると思います。

今日の記者会見では、安倍政権の右傾化に関して懸念が表明されはしましたが、それではそれに対してどのようにブレーキをかけるのかということに関して、はっきりした発言はありませんでした。賛成できないと明言したのは集団的自衛権の行使、海外での武力行使、改憲に対してですが、だから何かをするということは述べられませんでした。秘密保護法、新自由主義、TPPなどに関しては関心もないようで、何も言いませんでした。

総じて言えば、「脱原発だけを旗印として立候補した」というのが細川氏の全体像でした。確かに、これからの時代を生きていく若い人達にとって、原発は重要な問題ではありますが、秘密保護法、新自由主義、TPPの問題も負けず劣らず重要な問題です。自民党が改憲をすれば自衛隊が国防軍になるかもしれません。徴兵制にまで変化するのは大分後のこととしても、アメリカと同様に、若い人達が貧困から抜け出すことと引き替えに軍隊に入るという選択をせざるをえない状況になるかもしれません。

人間性を無視した労働環境、格差社会による貧困問題は、若い人達にとって、いつ自分達につきつけられるか分からない切実な問題である筈です。宇都宮氏は長年、多重債務問題で苦しむ人々を助けてきた弁護士だけあって、これらの問題に関しては具体的で実現可能な政策を提案しています。

その一つが公契約条例を制定するということです(3)。
「公契約条例?それは一体なに?」...こういう方面にはとことん疎い私にとって、一回聞いただけではその意味が分からず、何回か聞いたり読んだりするうちにやっとその内容を理解することができました。つまり東京都で発注する仕事に対し、条例で定めた最低賃金を守らない企業には発注できないようにするというものであり、これが実質的な賃金の底上げになるというものなのです。

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(1)東京「省エネ都市」宣言 細川氏公約案 東電に拠点建設要求(産経新聞 )
2014.1.15) http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140115/stt14011509170000-n1.htm

 東京都知事選への出馬を表明した細川護煕元首相の「脱原発」に関する公約案が14日、判明した。東京都が原発に依存しない「省エネ都市」を宣言した上で、都が大株主の東京電力に対し、研究が進んでいる太陽光・風力発電に加え、木くずなどを利用したバイオマス発電を中心とした「再生可能エネルギー基地」の建設を要求することが柱。原発については「即時ゼロ」ではなく、徐々に依存度を減らす方針だ。(中略)

 ただ、再生可能エネルギーの利用が本格化するまでは、電力需要に応えるため石油や石炭などの化石燃料への依存を続けざるを得ない。このため、東電柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)の再稼働については、反対を明確に打ち出すかどうか慎重に検討している。
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(2)《都知事選出馬へ》細川護熙氏 記者会見   http://www.youtube.com/watch?v=hxI_eDpWq8M
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(3)宇都宮けんじの5つの基本政策 http://utsunomiyakenji.com/policy/

 

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2014/01/21

329 名護市長選挙と都知事選挙-3

◆脱原発派の老齢化と焦り

昨日、1月20日には「脱原発都知事を実現する会」が細川一本化を表明する記者会見を行いました。この会の中心となるのは、長いこと脱原発活動を行ってきた方々であり(1)、去年は宇都宮氏を応援していた人達です。細川、小泉両元首相とそれに連なる方々は全く加わっていないということが、この会の性格をよく表していると思いました。

記者会見の動画(2)を見ての、私の個人的感想は、「脱原発派の老齢化と焦り」でした。デモや集会、パブコメなどの様々な市民運動で声をあげてきても(3)、それらはことごとく無視されてきました。結局は国会で過半数を占めている政府自民党のなすがままになっている現状──これを何とか打開したい、「自分達が生きている間に原発をなくしたい」という必死さが伝わってきました。

脱原発という点では、宇都宮氏も細川氏も同じでありながら、あえて宇都宮氏ではなく、細川氏を応援する理由は「原発を止めるには勝てる候補でなければならない」ということです。もっとも、これは出席者の中から繰り返し出てきた発言ではあるものの、配付資料の中に記載されているわけではありません。記者会見に公式に出された資料には「宇都宮氏は脱原発を政策としているが、他の政策と並列させており、優先度が低い」と書かれています。

これには驚きました。私は現時点では文句なく宇都宮氏の方が良いと思っているのですが、その理由はまさに、宇都宮氏が脱原発だけでなく、他の点に関しても共感できる政策を掲げているからなのです。なかでも、秘密保護法や格差社会がもたらす貧困に対して闘う姿勢が明確で具体的であるという点で抜きん出ていると思います。もし宇都宮氏が都知事になったなら、基本的人権が脅かされそうになっている今の日本にとって、きっと強力な助っ人になってくれることでしょう。この点については細川氏にあまり期待することはできません。

秘密保護法が通り、次は共謀罪の実現が画策されているようです。情報収集や情報発信の自由が制限されていく中で、日本が軍事国家に向かっていくことをどのようにして止めていけば良いのでしょうか?知る自由、表現の自由が脅かされる国になったなら、脱原発であれ、共謀罪反対であれ、市民運動全てが手足をもがれていくのではないでしょうか?このような問題に関して、最近見たツイッターで印象深い記事を幾つかご紹介します。

★よしだく ‏@yoshikuruzo 1月19日
もし、「市民の第一に」考えて立候補するならば、もっと前から市民活動に寄与していなくてはおかしいです。殿と言われるような全く違う境遇で、急に出てきて、弱者の立場など理解できるわけがない。このような名人を信用する人の神経が理解できない。

★よしだく ‏@yoshikuruzo 1月14日
東京都知事選の最大の争点は秘密保護法。原発反対は他の機会でも挽回もできる。しかし、秘密保護法はここで切り崩せなかったら施行される。すべての市民運動が消えるよ。細川氏・小泉氏組が勝てば、目暗判押したのと同じ、自由にやるよ。秘密保護法はガス抜きにされるよ。新自由主義がベースだからね。

★高橋美穂子 ‏@roarmihoko 1月14日
宇都宮さんに「栄誉ある撤退を」と呼びかけた人達は、同じ強さで細川さんや田母神さんに公開討論参加を呼びかけるべきだろう。政策論争を有権者に見せられないような候補者のために、一本化するから宇都宮さんは退け…なんておかしいではないか。

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(1)【都知事選】 脱原発市民団体 細川氏一本化へ(田中龍作ジャーナル 2014年1月20日)
http://tanakaryusaku.jp/2014/01/0008606

「原発を止めるためには勝つ候補者でなければならない」。東京都知事選挙をめぐって脱原発候補の一本化を目指していた市民団体や環境団体のリーダーたちが、細川元首相を応援することに決めた。きょう、国会内で記者会見し明らかにした。

 「細川一本化」を表明したのは「脱原発都知事を実現する会」。瀬戸内寂聴(作家)、柳田眞(たんぽぽ舎)、村上達也(東海村・前村長)、木村結(東電株主代表訴訟)、吉岡達也(ピースボート)、村田光平(元在駐スイス大使)……脱原発運動をリードしてきた著名人が名を連ねる。代表世話人は鎌田慧(ルポライター)、河合弘之(弁護士・脱原発弁護団全国連絡会)の2人。
(後略)

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(2)動画 【記者会見】脱原発都知事を実現する会・都知事選における脱原発候補統一について(2014年1月20日)  http://www.youtube.com/watch?v=3VyU7i_6bx0

(3)パブコメ全集計、原発不安が過半数 「原発ゼロ」87%(朝日新聞 2012年8月27日) http://www.asahi.com/politics/update/0827/TKY201208270101.html

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2014/01/20

328 名護市長選挙と都知事選挙-2

◆都知事選の混迷

名護市長選挙は辺野古移設に反対する稲嶺候補が勝ちました。久しぶりに心から喜べる選挙結果でした。

争点とそれに対する候補者の立ち位置がはっきりしていた名護市長選挙に比べて、東京都知事選は混迷の度合いを深めています。言うまでもなく、小泉元首相の支援を受けた細川元首相が脱原発を掲げての立候補を表明し、早くから脱原発を主張してきた宇都宮氏と競合する事態になったからです。

脱原発派の票が割れないように一本化すべきという話はずっと前から出ていましたが、ここにきて「細川氏に一本化すべき」という動きが活発化してきました。この問題に関してはツイッターでも毎日、沢山の意見が出されています。名も無い人も、有名人も、皆等しく140字の中に自分の意見を書いて伝え合う...このような意見交換の場はこれまでなかったものであり、新しい政治の形を感じることができます。

驚く事に「細川氏に一本化すべき」と活発に動いているのは、これまで脱原発に情熱をかけてきた人達です。去年は宇都宮氏を応援した人達が、細川氏の出馬表明がなされるやいなや、どっと細川一本化に動き出したという状況です。これに対して、宇都宮氏を支持する人達が「一体なぜ?」と憤慨する一方で、細川氏支持の人達は「今度が脱原発の最後のチャンス。一本化せずに桝添氏に負けたなら、取りかえしのつかないことになるじゃないか!」と憤慨しているのです。

本当のところ、脱原発を願う人々がどちらの候補を応援したとしても、その結果が意図するものになるかどうかは誰にも分かりません。危険はどちらの側にもあるのです。
【共倒れケース】宇都宮氏も細川氏も負け、そして二人の票数を合わせれば勝てた場合がその一つです。
【豹変ケース】一本化して(一本化せずとも、脱原発派の多くが細川支持になり)、細川知事が誕生した後、細川知事が豹変する場合がもう一つです。

私が願うのは、(A)多くの人が判断材料を手にすることができ、(B)それをもとに自分で判断し、選択することです。そして何よりも大事なことは、その選択が間違ったと分かった時、その事で互いに非難し合わないことです。間違った方は合理化せず、率直にそれを認めて、その後に生かしていくしかありません。

残念なことに(A)の条件は満たされていず、したがって多くの人にとって判断し、選択するという(B)が難しいという状況があります。テレビや全国紙などのマスコミは政府広報誌のようになっていて、大事なことは報道されないのです。判断材料をできるだけ共有するということが、選挙活動それ自体と同様(あるいはそれ以上に)大事なこととなってきます。

そういうわけで、今回は都知事選、ことに脱原発候補の二人に絞って、論点を整理してみたいと思います。

まず、脱原発という視点から二人の候補者を比べてみます。
宇都宮氏が脱原発に向かう候補者であることは、右から左まで、どの陣営の人達からも疑いをもたれることはないでしょう。勿論、エネルギー政策は国政の問題ではありますが、東京都の経済規模はノルウェーのそれに匹敵するものであり、都政としてできることが相当程度あるのです。大部分の国民が脱原発を望んでいる状況においては、東京都が変われば国も変わらざるを得ないでしょう。宇都宮氏は具体的には東電の大株主として、福島原発や柏崎刈羽の廃炉を要求したり、再生可能エネルギー産業を支援する計画を持っています。

細川氏の脱原発に向かう気持がどの程度のものであるかということは正直よく分かりません。それにも関わらず、脱原発派の人々が応援を始めたのは、小泉元首相の脱原発宣言が衝撃的なものだったからです。

私も小泉元首相の講演会の動画を二つ見て、驚くと同時に好感を持ちました。「以前は原発を推進していたが、あれは間違いだった。原発はやめないといけない、それも即刻ゼロにしないと駄目だ」という論旨は明快であり、原発を推進してきたことを合理化せず、誤りを認める口調は率直でした。それが逆に小泉元首相の現在の脱原発の意志が確かであることを感じさせました。その当時は細川氏の立候補は取り沙汰されていませんでしたが、小泉元首相を起爆剤として、大きなうねりとなって脱原発に変わっていくのではないかという希望を抱いたことも事実です。

私が小泉元首相の発言に疑いを持ち始めたのは秘密保護法が国会にかけられたあたりからです。自民党で賛成しなかった議員は一人だけでした。以前から脱原発を主張して、孤軍奮闘していた河野太郎議員でさえも秘密保護法に積極的に賛成で、そのことを「ごまめのはぎしり」というブログに書いていたのには驚き、失望しました。

私たちの味方かどうかという試金石となるものは、脱原発かどうかということではなく、秘密保護法なのではないかと思い始めたのはこの時からです。それでは小泉・脱原発宣言はは嘘なのか、本当は原発を維持し続けるつもりなのかというと、事はそれほど単純なものではないような気がします。

この問題に関しては、守田敏也氏「明日に向けて」が二回に渡って本質を捉えた記事を書いているので(1)(2)、関心がある方はそちらをご覧になって下さい。
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(1)守田敏也「小泉元首相(イラク戦争犯罪人)の原発ゼロ宣言をいかにとらえるのか?(上)」((773) 2013年12月14日)

http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/e2e1ba2e26e12f38885fb0d99f53bde0

(2)守田敏也「小泉元首相(イラク戦争犯罪人)の原発ゼロ宣言をいかにとらえるのか?(下)」((774) 2013年12月19日)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/b0e443e9c2cb34d0c263cc5eaca5864b

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2014/01/18

327 名護市長選挙と都知事選挙-1

◆名護市長選挙の重要性

国政選挙は二年半後までありません。安倍政権はそれを良い事に、秘密保護法を通し、更にこの先、共謀罪の実現を画策しているようです。これが実現すれば、犯罪の実行行為がなくとも計画段階で摘発できるようになるという、怖い法律です。

過半数を占めている自民党は、まさにやりたい放題と言う状態ですが、国政選挙はないとしても、地方選挙は山のようにあるのです。そのことを私は座間宮ガレイ氏の「ひっくり返す100万人無料メルマガ」(1a、1b)で知りました。

このメルマガは読む価値があります。何よりもまず面白いし、しかも無料で、登録するだけで毎日、選挙に関する生の情報が送られてくる仕組みになっています。生の情報の送り手は、このメルマガの読者です。この企画は2013年11月1日にスタートしたのですが、わずか2ヶ月半で読者が7000人になりました。皆さんも是非、(1a、1b)のサイトで登録して読んでみて下さい。

皆さん、知っていましたか?ほぼ毎日曜日に、日本のどこかで選挙があるのです。地方選挙であるとはいえ、その結果が次々とある方向に向かって行くとしたらどうでしょう?その集積は国政選挙に匹敵するものになるばかりでなく、2年半後の国政選挙の準備にもなるのです。「後2年半はやられっ放しだ…」とうつむいている暇はありません。

さて、毎週のようにある地方選挙の中で、当面、国政選挙にも劣らない重要な意味を持っているのが、名護市長選挙(1月19日)と東京都知事選挙(2月9日)です。

正直に言えば、私はつい数ヶ月前まで、名護市長選挙とその背景にある普天間基地の辺野古への移設問題がどういう意味を持っているのかということをよく理解していませんでした。鳩山元首相が「最低でも県外移設」という発言をして以来、個々のニュースに接してはいても、それが全体としてどういう構図で捉えられることなのか、それが感覚的に分からなかったのです。

直感的に分かったのは、沖縄選出の自民5議員が普天間基地の辺野古移設を容認した時です(2)。石破幹事長に脅されて沖縄県民を裏切ることになった5議員のうつむいた姿の写真を見て分かりました。国はこれまで人々の横面を札束ではたいて原発建設を了承させるということを繰り返してきたのですが、その構図と全く同じことが沖縄の基地移設問題に重なって見えました。

辺野古移設派であった二人の候補者を(票が割れるのを防ぐために)一本化し(12月26日)、直前まで県外移設を主張していた仲井真沖縄県知事が公約を破って、辺野古の埋め立てを許可する(12月27日)までの変化はあっという間の出来事でした。

辺野古移設に反対する稲嶺候補(現・名護市長)と移設賛成の末松候補との一騎打ちの結果がどうなるのかということは、日本が独立した主権国家として進むことができるのかどうかの分岐点になるものです。いよいよ明日は名護市長選の投票日です。日本中が固唾を飲んでその結果を注目しています。

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(2)沖縄選出の自民5議員、辺野古移設を容認 石破氏と会談(朝日新聞 2013年11月25日) http://www.asahi.com/articles/TKY201311250074.html

自民党の石破茂幹事長と沖縄が地盤の同党国会議員5人が25日、党本部で米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題について会談した。石破氏は会談後、5人と記者会見し、移設先について同県名護市辺野古沖を含むあらゆる可能性を排除しないことで一致したことを明らかにした。事実上、辺野古移設の容認となる。(後略)

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2014/01/17

326 西日本に旅行して-2

四国 その土地の時間の厚み

伊方原発の再稼働反対集会は地方都市の集会としては、かつてない規模の人々が集まり、大成功のうちに終わりました。長らく反対運動をしてきた方々は、狭い地域社会で敵味方に分かれて争う事の残酷さと悲しみを語られ、聞いていて思わずもらい泣きをいたしました。それを強いる国のやり方には怒りを覚えます(今、普天間基地移設問題で揺れている沖縄・名護市も同じ構図です)。

歩き遍路をすると、車で移動している時には見えなかった、もう一つの四国の姿が見えてきます。お遍路文化とでもいうものがあり、それが1200年もの間、脈々と受け継がれているのです。白装束を着て歩いていると、道を尋ねる前に道行く人が進む方向を教えてくれるということが何度もありました。「御接待」といって、巡礼者を助けるボランティアの人々も居て、熱い飲み物をいただいたこともありました。

東京の近郊にしか住んだ事のない私にとって、初めて経験する時間の厚みでした。この土地で人々は、土を耕し、魚を捕り、子供を育て、老いて死んでいくということを昔から繰り返してきた...その時間の厚みに胸を打たれました。福島にも違った形での時間の厚みがあった筈ですが、それを再び手にする事はできなくなりました。

伊方原発で事故があれば、四国のお遍路文化も観光産業も農業・漁業も壊滅します。一旦事故があった時、伊方町は被害者であると同時に四国は勿論、西日本に対する加害者にもなるわけです。

伊方原発に対する再稼動反対・廃炉決議の地図(1a, 1b)を見てみると、原発の周辺自治体とその他の自治体との温度差が見えてきます。私の家がある茨城県でも、福島原発事故によって、海も土地も汚染されました。東海第二原発に対する廃炉・再稼動反対決議が半数を越えたのは(1c)、もう人事とは思えないという危機意識の現れだと思います。しかし伊方町と同様、原発立地の東海村では再稼動反対・廃炉決議がなかなか採択されません。原発立地の人々に対して「自分達さえ良ければ、それで良いのか?事故があった時に責任をとれるのか?」と責めることは簡単ですが、それで問題が解決することはないでしょう。

伊方町であれ、東海村であれ、原発立地で原発の再稼動を求める人々は、日々の生活のためにそれを望むのでしょう。しかし逆に言えば原発再稼動させなくても日々の生活が成り立つならば、再稼動しなくても良いのではないでしょうか。

イタリアでは2011年、原発を廃止することを決めましたが、それによって原発廃炉事業が新たに12000人の雇用を生み出したということです(2)。原発立地の人々には「原発ゼロ=原発立地の経済が成り立たない」という思い込みがあるのでしょうが、むしろ逆なのだということを知らせる必要があると思います。今や御用報道と化したマスコミ、特にテレビでは決してこういう事を知らせませんから、敵味方を越えて、原発廃炉になった場合の将来像を話しあう場が必要かと思います。

勿論、イタリアの場合は原発廃止が国民投票で決まり、それに従って廃炉作業が始まったから新規雇用が生まれることになったわけです。日本の場合、最大の障壁は原発を維持しようとする国の方針です。実は日本でも、原発ゼロを求める超党派国会議員の会(原発ゼロの会)が原発を廃止する場合の法案(廃炉促進二法案)を既に作成しています(3)。そのうちの「廃炉周辺地域振興特措法案」では、廃炉になった場合の人々の暮らしを支えていく具体策を示しているのです。

問題は、原発ゼロの会の国会議員が61人で極めて少数であること、さきの衆参両院の選挙でそのうちのかなりの議員が落選してしまったということです。選挙でどの党に投票するかということが、日々の暮らしに直結するということが、この問題でもよく分かります。

再稼働反対集会の途中から雨が降ってきて濡れたためか、四国を離れるあたりから体調が悪くなり、自宅に戻ったころには夫婦順番で風邪で寝込む事になりました。四国から帰ったら、想田監督「選挙2」の上映会に行き、秘密保護法反対のデモに行き、12月7日の巨大デモに行くつもりだったのに...全てキャンセルで寝ているだけ。全く冴えない年末でした。

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(1a)伊方原発再稼働に反対する意見書 採択状況について(高知県) http://blog.green-citizens.net/?eid=109
(1b)伊方原発再稼働No! 包囲網データー 〈愛媛・香川・徳島〉 http://blog.green-citizens.net/?eid=110 
(1c)東海第二原発の廃炉・再稼動反対 可決状況 http://ibaraki.kokumintohyo.com/?page_id=1360

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(2)原発ゼロ決定のイタリア (ケンプラッツ) http://financegreenwatch.org/jp/?p=31065(Finance GreenWatch 2013.5.26)

原発廃止を決めたイタリアでは、原子力発電所の廃炉と環境浄化事業によって、1万2,000人の雇用が生じると言われている。経済危機にあえぐイタリアにとっては、発展の機会となる。古い原子力発電所の廃炉は、イタリアが放棄したひとつの産業部門の再スタートの機会となるだけでなく、イタリアと世界全体における新しい重要な展開の契機となるかもしれない。(後略)
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(3)原発ゼロの会の「廃炉促進二法案」の骨子案(「廃炉促進法案」と「廃炉周辺地域振興特措法案」)http://genpatsuzero.sblo.jp/
★廃炉周辺地域振興特措法案 http://saito-san.sakura.ne.jp/sblo_files/genpatsuzero/image/E5BB83E78289E591A8E8BEBAE59CB0E59F9FE68CAFE88888E789B9E68EAAE6B395E6A188E9AAA8E5AD90E6A188_130530E78988.pdf

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2014/01/16

325 西日本に旅行して-1

◆伊方原発 再稼動反対集会

今日は個人的な話から始めます。18年間家族の一員であった愛犬が10月半ばに老衰で死んだ後、どうも元気が出ず、記事を書く集中力と気力を失ってしまいました。朝夕の日課の散歩にも行かなくなり、気がついてみると、夫婦二人共引きこもり老人状態になっていました。「えっ?これって、もしかしたら世にいうペットロス?あるいは老人性鬱?」これは大変!まずは自分自身が元気にならないと何事も始まりません。

犬も居なくなったので、今まで我慢していた長期旅行に行くこともできます。今まで行ったことのない四国に長期の旅行に行き、12月1日に伊方原発の再稼働反対集会(1)(2)があるので、それに参加してこようという計画をたてました。

数日間は歩き遍路をして、犬の成仏と、「秘密保護法、TPP参加、原発再稼働」をやめるように、お大師様にお願いするという甚だ虫の良い、欲張った計画です。

3.11以後、西日本に行くのは初めてでした。行ってみると、そこはまるで別の国のようでした。人々は産地も何も気にせず買い物をし、レストランでは「お米は国産米を使っています」と「安全・安心」の表示として「国産」と記しています。私も事故後、初めて椎茸を食べました。悲しいくらいおいしい椎茸!事故前の日本、日本に住んでいる私達がどれだけ恵まれた生活を送っていたのか、衝撃を受けました。

伊方原発は再稼動の一番手として名前があがっている原発です。どうせ四国旅行をするならば、四国の人々にも伊方の再稼動に反対して貰いたいと思って、機会ある毎に「伊方原発の再稼動反対集会に参加するために来ました。時間があったら12月1日、松山の集会に行って下さい」と話しました。それに対する反応はどう表現したら良いでしょう?何を言っているのか理解できない様子、多少の好奇心のみの反応...。いずれにしても自分達の問題として受け止める人々はとても少なかったと思います。

こういう人達を責めることはできません。チェルノブイリ原発事故が起こった時の私はまさにこういう状態でしたから。放射能汚染に脅える私たちの毎日の様子を伝えても、「それじゃあ、伊方が第二の福島にならないように、私たちの総力をあげて止めないと」とは反応せず、「(そんなに不安に脅える毎日ならば)こっちに引っ越していらっしゃいよ。町営住宅は安いし、移住支援も積極的にやってくれるし..。」と全くの好意で勧めてくれるのです。これが現実です。この現実を前にどのように進むべきか、お遍路をしながら考え込んでしまいました。
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(1)NO NUKES えひめに8000人☆(伊方原発とめまっしょい☆若者連合のブログ)
http://ameblo.jp/tomemassyoi/entry-11715777528.html

本日行われた「NO NUKES えひめ」。
なんと
8000人集まりました☆
これだけの規模のデモ・集会が愛媛で行われたのは、70年代以来らしい!!
(中略)南は沖縄、北は北海道まで、まさに全国の方々が集まってできた集会でした。
はじめて大きな集会に参加した学生は
「これだけ人がいたら、図書館いく感覚で参加できる!」
「こんな人数でデモしてたら、だれも無視できず驚いてた」
と、初めての体験に「来てよかった^^」と話してくれました。
よかったー♪
これまで、「とめまっしょい」の活動していて、地元ならではの「しんどさ」にぶちあたるたびに、
東京の大きな集会に参加しては「脱原発は大きな世論だ!」と勇気をもらったり、
中四国に出張して「おなじ地域で頑張っている仲間がいる!」と励まされたりしてきました。
だからこそ、「愛媛で人がたくさん集まる場を作れば、愛媛の人々に勇気を与えられるのにな」
ってずっと思っていました。
まさか実現するなんて!!本当に、みなさんのご協力あってこそです。(後略)

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(2)松山市で再稼働反対の8千人集会 「伊方原発をとめる会」(東京新聞 2013年12月1日)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013120101001877.html

国の安全審査が進む四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)の再稼働に反対を表明する市民集会が1日、松山市の城山公園で開かれた。主催する市民団体「伊方原発をとめる会」の発表で約8千人が集まり「再稼働を許すな」と声を上げた。(後略)

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2013/10/16

324 内部被曝-5

◆血液像(白血球分画)

白血球分画という用語は一度も聞いた事がなかったのですが,インターネットを調べたら血液像の事だということが分かりました。血液像検査ならば聞いたことがあります。内容は全く知りませんでしたが。こういう検査はどの病院でもやって貰えるものなのでしょうか。

三田医師の話で救われる思いをしたのが「大量の放射性物質が放出されたわけですから、医者は、それまでとは違う症状がふえた場合「まず放射線の影響を考えてみる」というのが本来あるべき姿勢だと思う」という言葉でした。ツイッターでは,医者に体の不具合を訴えて,それが被曝によるものではないかと聞いた時に,まじめに取り合ってくれないという嘆きが沢山見られますから,こういう視点を持った医師が居るということは心強いことでした。

もう一つ,希望を感じた事は,異常が見られる子供であっても,西の方面へ最低でも2週間以上保養に出れば、多くの場合、数値は回復する傾向が見られるということでした。被曝したからもう駄目というわけではなく,まだまだ被爆の被害を少なくする事はできるし,それは早い方が良いけれど,今からでは何もできないというものでもないということでした。

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(2)b.「ママレボ編集長通信No6」 ~三田医院の三田茂院長に聞く~ 子どもの血液検査結果から見えてきたこと 関東全域の子どもたちに血液検査を!
http://momsrevo.blogspot.jp/2013/09/no6.html?spref=tw 

Q 白血球に占める「好中球」の割合が減少することで、どんな弊害が生まれるのでしょうか。

三田;よく、「好中球」の減少=免疫力の低下、と考える人がいるのですが、そうではありません。「好中球」というのは、通常、白血球全体の約60%を占めており、体内に侵入した細菌やカビなどを内部に取り込んで殺菌する働きをしています。「好中球」は、いわば免疫の中の「最後のとりで」であり、その前段階でいくつも菌などを抑える働きをしているシステムがあるのです。だから、「好中球」が減ったからといって風邪をひきやすくなるとか、感染症にかかりやすくなるといったわけではないのです。(後略)

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2013/10/15

323 内部被曝-4

◆被曝を巡る内戦状態

放射能と被曝を巡る内戦状態...この泥沼状態から抜け出すには,方法は一つしかありません。原子力発電と決別することです。これが全ての前提です。

具体的には廃炉に向かう決定をし,同時並行的に福島原発の収束に全力をあげることです。そのためには当事者能力を失った東電は破綻処理して,事故収束は国の責任で行うことが不可欠です。作業員は国家公務員にして,教育と訓練を行い,手厚い健康管理と高給で処遇しなければなりません。

原発被災地(福島県に限らず,毎時1ミリシーベルトを越える地域)に対しては,国はどんなにお金がかかっても,汚染地から人々が移住する手立てを講じなければいけません。それは高齢者が「住み慣れた土地を離れたくない」という気持を尊重することとは別問題です。十分な経済上の,生活上の支援があり,逃げるか,残るかの選択の(実際上の)自由があるならば,今のような人々の間にあるいがみ合いは減少する筈です。オリンピックには莫大な予算を投入する余裕があるのですから,お金がないという言い訳は成り立ちません。

「住み慣れた土地を離れたくない」という高齢者の気持を尊重し,インフラを整える事は必要ですが,それは彼等が子供や孫と心中する自由を認めるという意味ではありません。

私は去年ニコラス・ゲイハルター監督「プリピャチ」(1999年 オーストリア)という映画を見ましたが,その映画に出てくる老夫婦の生きる姿に圧倒されました。

「プリピャチ」はチェルノブイリ原発から4キロの街でした。事故後に5万人の住民がソ連全地域に移住し,今は厳格な監視下に置かれたゴーストタウンとなっています。家々は荒廃し,街への立ち入りは特別許可証が必要です。しかしここに事故後,一旦他の地域に移住したけれど,元の自分達の家に住みたいと言って,娘や孫と別れて戻ってきた老夫婦がいます。放射能に汚染された川で魚を採り,水を汲み,畑を耕し,そこでとれた作物を食べています。「ここで生まれ、ここで育ったので,もう少しここで生きたい。年寄りの私たちに放射能が何をするっていうんだね」と語る姿は威厳に満ちていました。DVDにもなったので,是非一度見ることをお勧めします。

さて,被曝の話に戻りましょう。国や県がちゃんとした被曝検査を進めない状況の中,業を煮やした市民組織が自前で甲状腺エコー検査を始めました(1)。素晴らしい活動に拍手を送ると同時に,こういうことをやらずに税金を集めている国や県の存在意義はどこにあるのだろうと疑わずにはいられません。日本を守るということは,日本に暮らす人々を守ることではないでしょうか?

ところで,内部被曝を調べる方法として,私はホールボディカウンターと尿検査くらいしか知らなかったのですが,「ママレボ編集長通信」の記事「子どもの血液検査結果から見えてきたこと」(2)では三田茂医師が血液検査の重要性を伝えています。三田茂医師は,被曝というと甲状腺エコー検査のことばかりクローズアップされているけれど,放射線の影響を調べるためには,むしろ「白血球分画」の検査をする必要があると話しています。

その詳しい内容は実際に記事を読んでいただくとして,私がこの検査を重要だと思った理由は,これが放射線業務従事者が毎年受けなければならない検診の中心項目となるものだからです。今まで漠然としていた被曝の害について,この記事を読んでかなり具体的なイメージを持つ事ができるようになりました。図表やグラフは割愛し,記事だけ転載しますが,具体的なイメージを持つためには,できれば実際にインターネットで読んでいただきたいと思います。ちょっと長いので,2回に分けて転載します。

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(1)東日本大震災:福島第1原発事故 つくばで甲状腺検査 常総生協など、支援基金で開始 /茨城(毎日新聞 2013年10月13日) http://mainichi.jp/area/ibaraki/news/20131013ddlk08040097000c.html

 東京電力福島第1原発事故で懸念される健康影響に対し、常総生協(本部・守谷市)などが設立した基金による甲状腺エコー検査が12日、つくば市で始まった。検査機器類は市民の募金で購入。支援する医師が検査を担う。茨城、千葉両県で検査を展開する。政府が 動かない中で、業を煮やした市民組織が自前で始動させた形だ。(後略)
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(2)a.「ママレボ編集長通信No6」 ~三田医院の三田茂院長に聞く~ 子どもの血液検査結果から見えてきたこと 関東全域の子どもたちに血液検査を!
http://momsrevo.blogspot.jp/2013/09/no6.html?spref=tw

Q 三田医院で行っている検査について、詳しく教えてください。
三田;当医院では、2011年10月ごろから、「白血球分画(はっけっきゅうぶんかく)」を含む血液検査と、甲状腺エコー検査を実施してきました。
 白血球は、5種類の球(好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球)からできているのですが、その5種類の割合を調べるための検査を「白血球分画」と言います。(後略)

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